暴力と恐怖で支配された戦場(その2)

もうこれ以上は無理だ、辞めよう。
肉体的にも精神的にも極限状態にあった私に、仕事を続けていくことはできませんでした。

前回の続きです。
私は就職した飲食店を辞めようと思っていましたが、あまりにも追い詰められていた私は、辞めさせてくださいの一言がどうしても言い出せずにいました。
そうしている間にも次々と災難が降りかかります。

過労死ラインの限界突破

ある日、店長の独立が決まり退職することが社長から伝えられました。これにより副店長が昇格することになるのですが、社長の懸念通り昇格した副店長も後を追うように退職することになります。
私は一人になってしまいました。まるで仲間が全員撤退し、両足を撃ち抜かれた状態の自分だけが戦場に取り残されたような気分でした。

暫くして新入社員が入ります。彼もまた社長とはバーで知り合った口で、働かせてくださいと本人からの申し入れがあったようです。
私は反対でした。なぜなら彼の事は私も知っていて、非常に性格が良くない人物だったためあまり好きではなかったからです。しかし社長の来るもの拒まずの精神と、人手不足もあり即採用となりました。私の負担はさらに増えていきます。

魔の社員研修

「ミナト、来週から研修入れといたから」

さて、この社員研修ですが、直営店やフランチャイズ店で勤務している社員を対象に、無料で店舗の運営や、経営を学べるという、とてつもなくありがたい座学研修会でした。
研修の時間は朝9時から昼3時まで。当然ですが、研修があるからといって仕事が休みになるわけではありません。なのでこの頃になると朝7時には起床し、研修を終えてから店に戻り営業、閉店まで残るときは4時に仕事が終わり、帰宅。朝7時に起床・・・
最大で約20時間拘束です。

もう毎日辞めることしか考えられません。どうすれば辞められるか、どうすれば辞めると言えるのか。
そんなことを考えながら仕事をしていると、突然目の前が真っ白になり何も見えなくなってしまいました。

これは……ついに召されたのか?

私はその場に膝から崩れ落ちました。私は失神を起こしてしまったのです。

骨折騒動

そんな状態でまともに仕事ができるわけがないのですが、ある日新入社員が仕出かし、その責任を私が負うことになり、社長の蹴りがクリーンヒットします。
当たり所が悪かったのか数日経っても痛みが引かず、私は骨にヒビでも入ってるんじゃないかと少し心配になり医者にいきました。

医者曰く、骨に異常はないが、内部で出血していてその出血が重力で下に落ちて行っていると。見れば患部から関係のない足の甲まで全体が内出血のような状態になってしまっていました。

「注射で血を抜こうか?そうすれば腫れはちょっとはおさまるけど」

………。

その後私が骨折したという話がなぜか近所で噂になり、それを耳にした社長から殴られました。

眠れる獅子

「ミナトくん久しぶり!元気!?」

元店長がご両親と一緒に来店されました。出店の日取りが決まったことの報告も兼ねて来てくれたようです。彼らは羨ましいくらいに幸せそうでした。

その日店を閉めたあと彼は元気そうだったなとか、ご両親と仲良いんだなとかそんなことを考えていると、突然こみ上げてくるものがあり、涙が溢れてきました。
希望だ目標だなんて格好をつけて家を飛び出した挙句、毎日辞めたい消えたいだのと情けなさから自己嫌悪に陥り、何の希望も見えない。
そもそも私を大学に行かせるための受験費用や学費のためにどれだけ両親が苦労してお金を貯めていてくれていたか。それをわかっていながら勝手に大学を中退し実家を去り、きちんと謝ってもいないで自分は今何をやっているのか。

本当は両親と揉めたくなんてない。本当は今まで苦労をかけた分親孝行したい。
謝りたい・・・

薄暗い店内でひとしきり涙を流したあと、私の中でプツリと、何かが弾けました。
それまで精神的にも肉体的にも限界まで追い込まれ、抵抗する力も残っていませんでしたが、恐怖と暴力がはびこるこの会社への反骨精神のようなものが私の中で生まれました。
眠れる獅子が目覚め、勇気を与えてくれたのでしょうか。
慕ってくれているバイトの子たちには本当に申し訳なく思いましたが、私は店舗運営の人手不足や、自分が抱える責任、社長からの期待、社長への恐怖、その他諸々全てを捨て去る覚悟を決めました。

翌日私は社長に辞める事を伝えました。

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