裏切りと絶望。欲望渦巻く出会い系サイトに仕掛けられた罠(その2)

「私ならお金のこと、なんとかできるかもしれない」
この言葉、果たして信用できるのか。
しかし私には選択肢はありませんでした。金のために。

出会い系サイトで6万円ほど騙し取られ、しかも半分は弟のお金を勝手に借りていた私は、なんとしても弟に借りた分だけでも工面する必要がありました。
そこで現れた金を工面してくれるという女性。私は疑うこともなくその女性を信じ、会いに行くことにします。

うつ病発症の引き金

私は騙されたことを受け入れられずにいました。しかし所持金が底を尽いていたため、何もできません。弟に嘘をつき通すのも、もう限界でした。
そう思っていた矢先1通のメールが届きます。

「暇」

……?」

なんだこいつは、暇って……。
荒んだ心でそう思いながらメールを開いてみると、元々登録していたサイトに繋がりました。この時私は最初に登録したサイトこそが完全無料であったことを知ります。そしてこの女性に出会い系サイトの実情を教えてもらうことになるのでした。

レンタルする少女

この女性は出会い系サイトは数年前からやっているらしく、生活費のためなのか遊ぶお金欲しさなのかはわかりませんが、そういった目的でサイトを利用していると言いました。今で言うところのレンタル彼女のような事でしょうか。
ちなみに内容にもよりますが、女性が掲示板に投稿すると1日に100通は男性からメールがきていたそうです。女性は何もしなくても男性から大量に連絡がくるのが無料サイト。悪質サイトとは真逆です。

「あんた騙されてるよ。だからもう有料のサイトは使わないほうがいいよ。あと、あまりにも可哀想だから私がお金貸してあげる」

なんということでしょう、あなたが女神か……
しかし彼女が自分の身を削って稼いだお金を私は借りていいものなのか考えます、例えお金が必要で切羽詰まっている状況だとはいえ。煮え切らない私に彼女はいいからと日時と場所を指定してきます。私は必ず返すことを約束し、彼女に頼ることにしました。
そして指定された日の前日の夜。

「実は親友に相談したんだけど、わたしは騙されてるって。そんな知らない男にお金貸しに行くんだったら絶交するって言われちゃって。だから、ごめん。やっぱりお金貸せなくなっちゃった」

悲しい事ですが、社会で生きていくためには何でもかんでも鵜呑みにしていては悪意を持った者の喰い物にされてしまいます。私が騙されて搾取されたようにです。
私は騙す気などありませんでしたが、彼女の判断は正しかった。私はまた振り出しに戻りました。

数撃てば当たる戦術

「事情を説明して手あたり次第当たれば誰か助けてくれるかもしれないよ。だから頑張って!私ができるのはここまでだから」

彼女は私が騙されていたことを教えてくれました。忠告を受けてもそれでもまだ騙されているとは信じられずにいた私を説き伏せてくれた、それだけで十分だったのです。むしろ親友の方に迷惑をかけてしまったことを申し訳なく思ったほどです。
私は彼女の助言を信じ、文章を打ち込む親指の痛みを堪え、片っ端から助けを求めるメールを送ります。
結果、何件か返事が返ってきました。その中の一人と話は進んでいきます。
この数撃てば当たる戦術は出会い系サイト攻略の基本戦術とされていますが、今となってはどうでもいいこと。

「私なら、お金のことなんとかしてあげられるかもしれない。相談にのってあげるから一回会おうよ」

私は安堵のため息をつきました。
これで全てが終わる。全て元通りになるんだ……。
地獄への入り口に足を踏み入れた瞬間でした。

開かれた会合

連絡を取り合っていた女性は自称30歳の既婚者で、子供が3人いると言っていました。そんな人が出会い系サイトなんてやっていていいものなのかと当時私は思いましたが、お金に困っている現状をなんとかしてくれるというので助けてもらうことにしたのです。待ち合わせの日取りは決まり、自宅の近くの駐車場まで迎えに来てくれるとのこと。

そして迎えた当日。忘れもしないあの日のこと。
午後10時、集合場所につきます。向こうは既に着いているとのことでした。車の特徴は事前に教えてもらっていたため、その車を探します。
見つけました。その車の横まで歩いていき、ドアの外から中を覗き込みます。

……男!?」

私は心臓の高鳴りを抑え、一旦車から離れます。まさか、はめられたのではないか。これは美人局(つつもたせ)なのか?しかし私には払うようなお金がないことは相手は百も承知のはず。
確認のため少し離れた場所から電話をかけてみると、車の中で電話に出る姿が確認できました。私は再度車のもとに向かいます。失礼な話ですがあまりの体の大きさに一瞬男性かと思ってしまったのです。

「こんばんは、少し話しながらドライブしよっか……

そして、車は動き出しました。

色欲に溺れた毒牙

「ちょっと話そうか」

女性はそう言うと川沿いに車を停車しました。私もお金の事をなかなか切り出せず、長い沈黙が訪れます。先に沈黙を破ったのは女性の方でした。

「私のこと好きだからきたんでしょ?

…………!?」

何を言っているのか私には理解できませんでした。しかし絶句している私を尻目に既婚女性は鼻息荒く迫ってきます。車内という密室で私に逃げ場はありません。迫りくる巨躯の物理的なプレッシャーは凄まじく、私は恐怖で身動きが取れませんでした。
この時私は電車内で痴漢に遭うも、恐ろしくて声が出せずに動けなくなってしまう女性の気持ちを理解しました。

私は金を工面してやるという甘い言葉の罠に引っ掛かり、要するに捌け口として利用されただけだったのです。

これも金のため耐えなければならないことなのか……?人を信用するということはこうも簡単に騙されてしまうことを言うのか……
私は絶望の淵に叩き落された気分でした。

帰路につく中で

集合場所であった自宅近くの駐車場まで車で送ってもらっている間、私は何も話す気にはなれませんでしたが、これだけははっきりとさせておかなければならないということが残っていました。

私は言葉を絞り出すようにして言いました。お金を工面しなければならないことを。

「いや、私男の人にお金貸すの好きじゃないんだよね……

いやいやいや、何を言っているんだこの人は。
お金のことをなんとかしてあげられるかもと言ったのはそっちじゃないか!と思うも、もはや私はそれ以上口を開く気にもなれなかったのです。
こうして、悪夢の会合は終わりを告げました。

悪夢のあと

その後、私は出会い系サイトを退会し、お金は親にパチンコで使ってしまったと嘘をつき、弟に借りていた分を親から借りるという形で補填してもらいました。
悪夢から生還した私の心は酷く傷つき、その日あったことがフラッシュバックする度に気持ち悪さや吐き気を催し、生きることをやめてしまいたいと思うようになりました。
今思えばPTSD(心的外傷後ストレス障害)のようでもありますが、この経験は私がうつ病を発症していくきっかけの一つの要因となったのは確かなことではとないかと思っています。

そしてこの育ちの地である、第二の故郷を去る日がやってきました。

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