コブタの救出(その1)精神病棟への入院勧告、精神疾患と戦う「意志」

信頼していた医師から告げられた言葉に、トンちゃんは耳を疑いました。

家族に置き手紙をして東京の自宅に戻ったトンちゃんでしたが、処方されていた向精神薬の過剰摂取(OD)をしようとしたことにより、医師から仕事を辞めるようにと言われてしまいます。そして先生はこう言い放ったのです。「入院したほうがいい」と。

コブタの救助

一時帰宅していた実家から東京の自宅にトンちゃんは戻りますが、実家で向精神薬をあるだけ一気に飲もうとしたせいで(OD:オーバードース)毎日の服用する薬がなくなってしまい、追加で薬をもらうために通院していた精神科の病院へ向かいました。
どうして薬が足りなくなったのかを正直に話すと、事態を重く見た先生はトンちゃんの仕事にドクターストップをかけます。(ドクターストップとは医師が患者の病状などの悪化を防ぐ目的で何らかの行動を禁止することを言い、トンちゃんの場合は労働にストップがかけられました)

トンちゃんはアルバイト先に書いてもらった診断書を持っていき、仕事を辞めることになります。
この時もそうでしたが、トンちゃんは向精神薬の量を増やされ薬に依存しだしてからは、治療の方針や薬の量などについて自分で考える力はなく、全て先生の言う通りに従っていました。仕事も先生が辞めろと言うからには辞めた方がいいんだと、何の疑いもなく先生を信用して辞めました。

その後何度目かの診察で先生はトンちゃんにこのように言いました。

「入院したほうがいいかもしれないね、近くの病院で精神疾患の患者さんを受け入れてくれる所があるから」

入院……
入院しなければいけないほど自分は酷い状況なのだろうか、そもそもそんなお金はトンちゃんにはありません。入院するお金がありませんと伝えると先生はこのように続けます。

「生活保護を受ければ、入院代は賄えるから、生活保護を受けることを考えてみたら?」

この時ばかりはトンちゃんも先生に対して疑惑の念を抱きました。

コブタの疑義

実は通院している精神科の病院に不満がなかったわけではありません。きちんと予約を入れてあるのに予約ができていなかったり、処方される薬の数が合っていなかったり、先生の話の辻褄が合っていなかったりと、おかしい事やあまりよくないなと思う事はいくつもありました。
しかしトンちゃんは先生の言う事に全て従っていました。それは先生を信じて精神薬を飲み続ければ精神疾患が治ると信じていたからです。それなのに先生は見捨てるように言い放ちました。

「入院したほうがいい」

トンちゃんには先生の言葉が、精神薬を飲み続けていても症状が改善するどころか悪化していく一方で、自分の手には負えないから精神病棟へ入院させようとしているようにしか聞こえませんでした。

自分はもう精神薬で薬漬けになってしまっていて正常な判断もできない。自分は入院して一生精神病棟で暮らすしかないんだろうか……
トンちゃんは数日間自宅から動くことができませんでした。

最後の望み

このことを言えば実家に連れ戻されるから家族には頼れない、でも一人ではどうしようもできない。トンちゃんは最後の望みをかけて電話を取りました。

「助けてください、精神科の病院に入院させられそうなんです……

トンちゃんは私に助けを求めました。困ったことがあったら連絡してもらって構わないと以前から伝えてあったのです。
トンちゃんから現状を聞き、私は第三者の目線で現状を判断するためにトンちゃんが通院している病院の先生に話を聞きに行くことにします。

初めは2人で病院へ行き、途中からトンちゃんには席を外してもらいました。
私は先生に聞きました。トンちゃんの現状や、それまでの経過、本当に入院しなければならないほどに病状が悪化しているのか、まだ20代なのに本当に生活保護を受けないといけないほど酷い状態なのか。

先生の答えはどれも曖昧で、私とは一度たりとも目を合わせようとはしませんでした。

私は客観的に判断したつもりですが、どうしても先生に不都合があるようにしか思えませんでした。

コブタの救出

病院を出たあと、私はトンちゃんに自分の過去を話しました。
私もかつてうつ病や対人恐怖症、ギャンブル依存症などの精神疾患を患っていたこと、そしてそれらは投薬には頼らず自力で克服することができたことを。

私はトンちゃんに言いました。
今まで先生の言う通りに従ってきて、生活保護を受けて入院するしかないのだろうかと思っていたのかもしれない。それでも、私に助けを求めて連絡をくれたということは、まだトンちゃんは諦めていないからだ。
全てを諦めて先生の言う通りにはまだなりたくない、病気に屈せず病気と戦いたいという「意志」があったから、きっと私に連絡をくれたんだと思う。
もちろん入院することが、生活保護を受ける事が諦めることになるわけじゃない、それでも自分の中でそれは違うという「意志」があったからこそ今の行動に繋がっているんじゃないか。

実際に病気が良くなるかどうかはやってみないとわからないし、保証はできない。増やされ続けた向精神薬の依存もあるし、体と心を健全な状態にしていくことはとても困難な道のりになると思う。
それでも戦う意志があるのなら、人の言いなりにならず、自分で自分の人生を切り開く意志があるのなら私に付いてくるといい。私が助けになるから。

湊の心残り

私には心残りがありました。それはトンちゃんと平衡感覚の検査(コブタの通院その2を参照)をしに行ったとき、何もしてあげられなかったことです。
暗闇に覆われた恐怖の中で、トンちゃんはもがき苦しみ、力なく震える手で何かを掴もうとするも手は虚しく空を切るばかり。私はその姿を離れた場所からただ見守っていることしかできませんでした。

トンちゃんから連絡がきた時、私の目の前で起きていることはあの時と同じことでした。暗闇の中で怯え、トンちゃんは深い闇から引き上げてくれる頼みの綱を探して、今も手を伸ばし続けている──
私はあの時できなかったことを、トンちゃんに救いの手を差し伸べてあげられなかったことを、今こそしてあげる時なのではないかと思ったのです。

どうするかの判断は、トンちゃんに委ねました。

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