コブタの救出(その2)踏み出した一歩、寛解に向けて歩き出したコブタ

自分の意志で手繰り寄せた頼みの綱。トンちゃんは湊の下で精神疾患と戦うことを決めました。

通院している精神科の先生にはこれ以上従うことはできない。
湊に差し伸べられた手を掴み、トンちゃんは精神疾患と戦う決意をしますが……

「もしもし、お父さん……?」

トンちゃんにはもう一つ、やらなければならないことがありました。

コブタが地に足をつける時

トンちゃんはお父さんに連絡を取ります。それは例え私の善意とはいえども、親戚のお世話になるということはお父さんの了解を得てからではないといけないからでした。
トンちゃんはお父さんに現状を伝えました。通院している病院の先生から入院を勧められていること、精神疾患に理解があり、精神疾患を克服した親戚の湊が治療の助けになってくれると言っていること、そして自分の意志を。

「反対したりもしたけど、私は今までお母さんが決めたレールに沿って生きてきました。今の私の現状を話せばきっとお父さんもお母さんも実家に戻ってこいって言うと思う。
でも、それだときっと病気はよくならないと思うし、私は自分のやりたいと思った事をやりたい、自分の人生は自分で決めたいと湊さんと話してて思いました。今私がやりたいことは、こっちに残って病気と戦いながら生きていくことです。だから、わがままな事を言っていると思うけど、湊さんのお世話になることを許可してください」

トンちゃんは、思いの丈をお父さんに伝えました。

コブタの病院探し

私はトンちゃんが通院する病院を変えるため、今後治療を進めていく上で患者の意見を尊重してくれる病院をトンちゃんと一緒に探しました。
私が病院を探すにあたって重視した点は3つ。

・減薬したいという患者の意思を尊重してくれること
・日常的に服用する向精神薬が必要なくなった場合、頓服薬だけの処方もしてくれること
・カウンセリングだけの診察も行ってくれること

条件に合う病院は見つかり、私はトンちゃんと2人で病院へ行きました。

先生は40代前半くらいの女性の方で、話し方や考え方から、はっきりとした性格ですが自身の意見を押し付けるような方ではないように見受けました。

私はトンちゃんが処方されている向精神薬の減薬と、もし必要がなくなった時にはカウンセリングのみ、もしくは頓服薬だけの処方にしてもらいたいという旨を伝えます。

「わかりました、徐々に薬を減らしていく方針でやっていきましょう。ただ、減薬中の体調の変化や薬が合っていないと判断した場合はこちらの判断で薬を変更することはあると思いますが、その際にはトンちゃんさんが相談できるように、急に今日から変更ということはしないので安心してください」

この病院がトンちゃんが今後通うことになる病院となります。
そして後日、トンちゃんは「双極性障害」「不安障害」と診断されました。

父と娘

トンちゃんのお父さんはやはりまだ、娘の病気については理解できないでいました。
親戚の私にお世話になりたいというのも、結局のところ自分が楽をしたいだけ、人に甘えているだけなのではないかと、そのようにしか思えなかったのです。
それでも、娘と離れて暮らす時間が長ければ長くなるほど、一人で頑張っている娘を応援したいという父親としての気持ちは大きくなっていました。

思えば一緒に住んでいた頃は些細な事でいつも喧嘩ばかりしていました。
髪の色を変えた時は「なんだその色は、元に戻せ」と怒られたり、帰宅する時間が遅くなった時は「いつまで遊んでるんだ、もっと早く帰ってこい」と怒鳴られたり。そんなことがある度にお互いが暫く口をきかなくなってしまいました。

しかし、トンちゃんが実家を出て一人で生活を始めてから、時々お父さんから電話がかかってくるようになりました。

「元気でやってるか?」

「ちゃんとご飯食べてんのか?」

トンちゃんも、いつしか自分からお父さんに電話をかけるようになりました。
お父さんは、トンちゃんのくだらない話も「うん、うん」と聞いてくれました。

病気のことはよくわからないけれど、娘の事は応援してやりたい。
それが娘を想う父親としての、お父さんが出した結論でした。

「もしもし、湊くんかい?私はまだ娘の病気のことは正直に言うと理解できていないし、よくわからない。ただ、娘は一人で東京に出て行って、こんな状態になるまで頑張って、それでもまだ病気を治してそっちで頑張り続けたいと言っている。私は父親として、娘のその思いを尊重してあげたいんだ。
それに娘は家に帰ってくるよりも理解のある湊くんの下にいたほうが病気が治る希望が持てると言っていて、きっと私が今何を言っても言う事を聞いてくれないと思うんだ。
だから、すまないが湊くん、うちの娘を頼みます」

こうしてトンちゃんは、湊家の住人となりました。

コブタの現在(いま)

トンちゃんは以前の先生に入院を勧められた時の事を思い出して、こう言います。

「あの時先生の言われた通りに入院しないで、本当に良かった」

トンちゃんは現在徐々にですが向精神薬の減薬に成功し、精神疾患を克服するために歩き続けています。このまま順調にいけばトンちゃんが向精神薬を必要としなくなる日を迎えることも、遠い未来ではないように私には思えます。

トンちゃんが向精神薬の依存と戦い「寛解」に向かって今も歩き続けているのは、精神疾患だからと自分の人生を諦めず、一歩を踏み出す意志があったからだと私は思います。
もちろん私の助けもありました。
それでも、自分の意志で、自分の足で一歩を踏み出し、自分で自分の人生を切り開きたいという思いがあったからこそ現在(いま)があるのだと私は思っています。

トンちゃんの一歩一歩が、皆様の一歩を踏み出すきっかけに、皆様の歩を進める後押しとなれればと、私は心から願っております。

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