再起

トゥルルルルル ガチャッ
「お電話ありがとうございます。受付のミナトと申します」
私は、コールセンターにいました。

夜の仕事はもう辞めよう。
夢や希望、そして自分の居場所。その全てを失ってしまった私は、飲食関係の仕事はもう諦めようと思っていました。
前回の騒動から暫くした後、派遣社員として私は働いていました。

夢を追う者たち

一度はバーで働くことが決まるも精神的不調から多くの人に迷惑をかけ、働くことを辞めた私は夜の時間帯に働くのはもうやめようと思っていました。この時はまだなんとなく感じていた程度でしたが、昼や夕方に起きて暗い時間帯に活動していると気分が悪化しやすくなるような気がしていたからです。

そこで見つけたのが派遣のコールセンターの仕事でした。時間は朝から夕方までで勤怠管理もしっかりしていて、業務内容もアルバイトと特に変わりはありません。何より赤面症だった私にとって有り難かったのが、赤面しようがしまいが何も変わらない、気にする必要がないといったところでした。
何せお互い話している相手の顔が見えないわけですから。

コールセンターというとクレーム対応や離職率の高さ、その他諸々悪い噂が多いですが、私の場合は案件や職場の状況もありましたがとても居心地のよい所でした。
勤めていたコールセンターは給与面や労働環境の良さ、立地から夢を追う20~30代の若者が多く、音楽、芸術、演劇など様々な目標を持っている方で溢れていました。
その中で特に仲が良くなった男性ができます。

「この仕事が終わったら俺はホストになる!」

お節介焼きのホスト志望

コールセンターの仕事は案件の期間が決まっていて、3カ月~半年の短期の契約でした。(入社した後に知らされたので、いやいや聞いてないぞと誰もが思ったのですが)
仲良くなった男性は当時20代後半で、この仕事で準備するお金を稼ぎ、未経験のホストの世界に飛び込みたいと言っていました。彼とは気が合い、よく一緒にいたものです。

「ミナトはこの仕事終わったらどうするの?」

その時は今後どうするかは特に何も決めていませんでしたが、希望に溢れた周囲の仲間が羨ましくて自分もまた夢を見たくなったのかもしれません。私は以前バーテンダーになりたいといった夢があったものの、自分でその機会を無くしてしまったことを話しました。

「だったらいいバー探しにいこう!」

それからというもの私は彼に連れ回されるようになります。
私達のバー巡りが始まるのでした。

復帰訓練

初めは私も乗り気ではありませんでした。バーに対する一種のトラウマのようなものもありましたし、そもそも夜の仕事に復帰したらまた体調がおかしくなるのではないかといった不安もありました。ですが朝方の生活に変えてから体調がやや回復してきていたのは何となく自分でも感じていたので、ただ行って飲むだけならということでバー巡りに賛同します。
私達は色んなバーに行きました。彼はもちろん行った先のバーで私の事はお店の人には話しませんでした。彼は私の中にある恐怖心を取り除こうと、リハビリをしてくれていたのだと思います。

「ミナト、今日もいくかい?」

私はバーに行くのが楽しみになっていました。その日は初めて行くバーに二人で行くことに。お店に入り、そろそろ出ようかというところで彼が言います。

「実はこいつがバーで働きたいらしくて、求人みて来たんですよ!」

羨望の眼差し

いやいや何を言っているんだこの人は、そんなの聞いてないぞ……焦る私を尻目に彼はこう続けました。
最近バーに行くとカウンターの中やバーテンダーの動きを熱心に見ていたり、目線が働きたくってうずうずしているようにしかみえないんだよ。本当は働きたいんだろ?ビビッてないで一歩踏み出せよ。その一歩目は俺が作ってやったから。

「ミナト!夢を掴もうぜ!」

お店の方はもし面接希望でしたら履歴書を用意して後日改めて連絡を下さいと。
私はその場では決断できずにいました。

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