ギャンブル依存症で変化した「脳」は回復する?原因と仕組みを元依存者が解説

ギャンブル依存症で変化した脳は回復するのかを、原因と仕組みをふまえて解説

パチンコなどのギャンブルに依存してしまうと、その過程で「脳」が変化するといわれています。

これにより、ギャンブル依存者は、パチンコなどの依存対象にしか興味を持てなくなってしまう。

では、いちどでもパチンコ依存症などになってしまえば、二度とギャンブル以外のことを楽しむことはできなくなってしまうのでしょうか?

この記事の内容
  • ギャンブル依存症の原因は「脳」にあった?
  • なぜギャンブル依存症になるとギャンブルにしか興味を持てなくなるのか
  • ギャンブル依存症を克服できたあとは脳は回復するのか

この記事では、ギャンブル依存症の原因や仕組みにかかわる「脳」の変化について解説します。

ほんとうはもう行きたくもないのに、なぜか体が勝手に動いてパチンコ店に行ってしまう……。その原因も判明することでしょう。

また、元重度のギャンブル依存者だった私に起きた、それを克服したあとの変化、つまり「脳は回復するのか?」についてもお話しておきます。

目次

ギャンブル依存症の定義

そもそもの話、ギャンブル依存症とはなんなのでしょうか?

WHO(世界保健機構)によって作成されたICD-10(国際疾病分類)では、ギャンブル依存症は、このように定義されています。

病的賭博
この障害は頻回の反復性の賭博のエピソードからなるが、その賭博が社会的、職業的、物質的、家族的な価値や遂行を損なうほどまで本人の生活を支配している場合である。

厚生労働省 ICD-10(2013年版)第5章

医学的な呼称では、ギャンブル依存症は「病的賭博」とよばれています。

その内容に関しては上記のとおりですが、これは表現が複雑なのでわかりにくい。

そこで簡単に説明すると、以下のように解釈することができると思います。

くりかえされるギャンブル行為によって、ギャンブルが他人との関係や社会生活、仕事、経済的利益、家族との関係に問題が出るほどに、本人の生活を支配している場合のこと。

ギャンブルによって、友人関係や仕事などの社会的な生活がおびやかされている。毎日を生きていくための、個人的な生活もそう。家族との関係も損なわれてしまっている。

それでも、どうしてもギャンブルをつづけてしまって、ギャンブルをやめることができない。

もしそうなのであれば、それはもう「ギャンブル依存症」という、れっきとした精神的な病気であるといえるのです。

ギャンブル依存症の原因と仕組み

では、どうして私たちはギャンブル依存症になってしまう、もしくはなってしまったのでしょう?

これに関しては、以下のようなものが原因として考えられています。

  • 両親がパチンコをするなどの「幼少期の生活環境」
  • まじめ・負けず嫌いなど、本人の性格や気質がかかわる「心理的な要因」
  • うつ病などの「その他の精神的な病の併発」

こういった、さまざまな要因が複雑にからみあうことで、私たちはギャンブル依存症という病気になっていきます。

しかし、原因はそれだけではありません。

そう、数ある原因のなかでもとくに注目すべき、「脳機能の異常」というものがあるのです。

ギャンブル依存症と脳の変化

私たちは、つねに自分の意思で行動を決定しているように思えます。

しかし、これは突き詰めると、私たちに行動の指令を出しているのは「脳」だ、というところにたどりつきます。

意思とは関係なく、体はなぜか、フラフラとパチンコ店へ……。

その行動を決定させる「脳」では、いったいなにが起きているのでしょうか?

ここでは、ギャンブル依存症の大きな原因として考えられている、脳の変化について見ていきましょう。

1. 報酬系の異常と快楽への耐性

私たちの脳には「報酬系」とよばれる場所があります。

  • お酒を飲みたい
  • タバコを吸いたい
  • 美味しいものを食べたい

そういった、なんらかの欲求がみたされたときに活性化し、私たちに「快楽」の感覚をあたえるもの。

本来は、人間が生きていくために必要な、本能的な部分で働く機能です。

ドーパミンという脳内物質が分泌されることで、この報酬系は活性化します。

そして当然のことながら、ギャンブルによって得られるスリルや興奮、勝つことでの達成感でも、人間の欲求はみたされます。

つまり、私たちは、ギャンブルによって快感をおぼえるのです。

ギャンブル行為によって欲求がみたされると、「もういちどあの快感を味わいたい」という、つぎなる欲求が生じるようになります。

いちど味わってしまった強い快感が、つぎの動機づけ(もういちどしたい)を誘発するからです。

ところが、これによってギャンブル行為が習慣化し、「欲求が生じる → みたされる」がくりかえされていくと、どうなるのでしょう?

しだいに私たちの頭の中では、快楽への「耐性」がつくられるようになっていき、それまでとおなじ快楽・刺激では、私たちは満足できないようになってしまうのです!

これが、人がギャンブルに依存してしまう基本的な理由。

このようにして、ギャンブル行為はだんだんと歯止めがきかなくなっていき、依存症は進行していってしまうのです。

2. ギャンブル脳への変化

快楽への耐性ができていくことで、ギャンブル行為は過熱していくことがわかりました。

ようするに、脳が変化していくということです。

快感の連続でギャンブル依存症が進行していくと、ものごとへの感じ方が変化してしまう。

そう、私たちが感じる周囲の刺激にたいする反応に、変化が起きてしまうことがわかっているのです。

以下は、ギャンブル依存症者と健常者の、周囲の刺激にたいする、脳の反応を比較した実験の画像です。

ギャンブルによって変化した脳

(出典:Insular activation during reward anticipation reflects duration of illness in abstinent pathological gamblers (英語 pdf) )

左側がギャンブル依存者で、右側が健常者。

脳の赤くなっている部分は、刺激にたいする脳の反応をしめしています。

では、この実験ではなにがわかったのでしょうか?

なんと、一般的な人(右)は、周囲の刺激に脳の活動が活発化しているのにたいし、ギャンブル依存者(左)は、周囲の刺激に脳の反応が低下していることが判明したのです。

そして、この実験の肝は、そのさきにありました。

ギャンブル依存者は、周囲のことに脳の反応は低下する一方で、ギャンブルに関係することだけには、脳が過剰な反応をしめすようになっていたのです。

「友人と遊びたい、ゲームがしたい、旅行がしたい」といった興味がうすれる一方で、「パチンコ・スロットがしたい」という欲求だけは強くなっている、ということです。

このように、ギャンブル依存症によって起こる脳の変化は、ギャンブル以外の趣味や楽しみへの興味を失わせ、ギャンブルがこの世の中で、もっとも楽しいものだと錯覚させます。

どれだけ快楽を得ても満足できず、ギャンブルだけを追いつづけなければならない。

そんな体に、私たちを、いとも簡単に変えてしまうのです!

依存症が進行していくことで変化する「パチンコ脳、ギャンブル脳」。

私たちがギャンブルをやめられないのは、意志の弱さや心の問題ではありません。

それらを無意識のうちに支配する「脳」が、いつのまにか、ただそうなってしまっていたからなのです。

パチンコ依存症によって変化した脳は回復するのか?

私たちがパチンコなどのギャンブル依存症になってしまうのは、しだいに脳が変化し、興味関心がギャンブル一直線となってしまうから、ということがわかりました。

それでは、この状態は、一生にわたってつづくことになるのでしょうか? 変化した脳は、もう回復することはないのでしょうか?

ここからは、ギャンブル依存症を克服した私が、それについての意見を述べます。

スキップしながらホールを歩いた依存症時代

私は10代のころからパチンコをしていて、10年以上にわたってギャンブル依存症でした。

とくに20代前半のころは、パチンコをすることが、もうほんとうに楽しかった。

開店直後のあの静けさ。それがたまらなく好きで、ホールをスキップしながら歩いていたこともあったほどです。

  • 友人との約束をすっぽかしてパチンコ
  • 家族との旅行を当日ドタキャンしてパチンコ
  • 恋人とのデートはしかたなく行っている(パチンコに行きたいのをがまん)
  • それまでの興味関心はすべてパチンコに変換

まさにパチンカスとはこのことでしょう。

パチンコにはまるまでは、いろんな趣味・関心がありました。

  • 読書
  • ゲーム
  • 音楽
  • 映画
  • 海外旅行(異文化コミュニケーション)
  • 友人との会合

それらはすべて、パチンコによってかき消されてしまっていたのです。

なにをしてもおもしろいと感じられず、金のかかっていない遊びなんて子どもだましだと。

まさに、「脳が変化していた」としか思えません。

ギャンブル依存症の克服後に変わったこと

では、そんな私がギャンブル依存症を克服したあとでは、これらはどう変わったのでしょうか。

まず、かつての興味関心が復活しました。

これまで読めなかった本が読みたい。行けなかった海外旅行に行きたい。
知らない場所に行ってみたい。見たことがなかった景色を見てみたい。
あれもしたい、これもしたい。
そして、これまで失われてきた時間を、なんとかして取りもどしたい。

ギャンブル依存症になってしまうと、それを発生される「回路」は一生のこるといわれています。

しかし、私の例をみてもそうですし、これまでギャンブル依存症を克服してきた先人もきっとそうでしょう。

ギャンブルから離れたあとも、すべての興味関心を失ったままで、抜け殻のような状態がつづくことはないのです。

回復します。

変化した脳は正常に回復し、新しい趣味や、かつての関心を取りもどすことはできるのです!

もし、抜け殻となってしまうことをおそれているのなら、安心してください。

だいじょうぶですよ。パチンコや、スロット以外の楽しいことは、きっとまた、見つけられるはずですから。

今回のまとめ

  • パチンコをしていると脳が変化する
  • 脳が変化するとパチンコにしか興味が持てなくなる
  • 依存症を克服できれば興味関心は復活する

パチンコなどのギャンブルをやめられないのは、意志が弱いからではありません。自分ひとりではあらがえないレベルにまで、脳が変化してしまっているからなのです。

しかし、そんな状況だったとしても、ギャンブル依存症は克服することができます。

進行を食い止めることもできます。

依存症を克服していく過程で、脳の機能も正常に回復していきますし、ギャンブル以外のことにも、興味を持てるようになります。

いくらでも手はありますから、だいじょうぶ。

まずは、自身がギャンブル依存症という「精神的な病」を患っていることを認識し、これからはじまる、克服という名の戦いにそなえてください。

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