現実は厳しく辛い。しかし私たちは一時の間、現実から逃避できる世界を得た。仮想現実(バーチャル・リアリティ)の世界だ!
長年に渡る化学技術の進歩により、人は時空を超えた仮想の空間、仮想現実へと入ることを許可されました。
そう、「VR(バーチャル・リアリティ)」だ。
一般の消費者向けに普及していったのがVR元年と呼ばれた2016年。そして2020年現在、VRはスマートフォンの普及によって、よりカジュアルに体験することができるようになっているのです!
ということで、早速VRを体験してみたぞ!
VR(バーチャル・リアリティ)の歴史
実はVRの歴史は思った以上に古い。
最初期のコンセプトととして知られているのが、スタンリイ・G・ワインボウムによる1935年の短編小説「Pygmalion’s Spectacles(ピグマリオン劇場)」で、同小説には科学技術によって物語の映像を投影し、その物語の中で視覚、音、匂い、味を感じ取ることができる「魔法の眼鏡」が登場。
あなたが影に話しかけ、影が返事をするように作る。そして、画面上にいるのではなく、物語はあなたについての全てであり、あなたはその中にいるPygmalion’s Spectacles
とし、VR(バーチャル・リアリティ)の先駆けとなったと考えられています。(原文は英語ですが無料で読めます)
それから20余年後の1960年頃、映画監督としても知られる映像技師、モートン・ハイリグによって「sensorama」というVR装置が開発されます。
同装置は最も初期のVRシステムの1つと考えられ、形状は大型のビデオアーケードゲームのような筐体で、プレイヤーはバイクに乗る体験が可能に。映像は立体カラーディスプレイを通して目に入り、可動式の椅子はバイクの振動を、ファンから放出される風からは風圧、そして街の匂いまでをも感じることができたのです。
そして1960年代後半に入ると、アメリカの科学者アイバン・サザランドによって「The Sword of Damocles(ダモクレスの剣)」が開発されます。
この装置は重量のために天井から吊り下げる必要があったのですが、頭部に搭載するヘッドマウントディスプレイ(HMD)としては初めてのものと考えられ、現在のVR・HMDシステムへと繋がる、最初のウェアラブル型VR装置となったのです。
2016年VR元年、そして……
その後の1980年代には、仮想空間内で物を掴むなどができるグローブ型コントローラー、それと連動したヘッドマウントディスプレイ「The Eyephone」が発売され、VR(バーチャル・リアリティ)という言葉が一般に浸透していきます。
1990年代には懐かしの任天堂のゲーム機「バーチャルボーイ」が発売されますが、それからのVR業界は暫く大きな動きはなくなっていき、このまま下火になっていくのではないかとも思われました。
しかし、2012年になると「Oculus Rift(オキュラス・リフト)」の登場によりVR業界は再び息を吹き返し始め、Oculusの一般販売や「PlayStation VR」などの発売が重なった2016年はVR元年と呼ばれたのです。
そして2020年現在では、従来のヘッドマウントディスプレイよりも安価で、スマートフォンを利用することで気軽に体験できる「VRゴーグル」も多数登場。より一般消費者にVR装置は普及していっているのです。
VRゴーグルで仮想現実を体験!
VRはスマホが1台あれば気軽に楽しめる時代に突入。であれば、使わない手はないだろうということで、早速購入してみました。
購入したVRゴーグルはこれだ!
VRゴーグルは中国メーカーの物が多いのですが、その中でも信用できると思われたエレコムのVRゴーグル(VRグラス)をチョイス!型番はVRG-X01BK。
内容物はVRゴーグル本体と、説明書、レンズクリーナーが同梱されています。
フロント部分を開くとこのように空洞の前に台座があり、スマートフォンをセットできるようになっています。対応しているスマホのサイズは4.0~6.5インチまで。iPhoneであれば5~11ProMAXまで使用することができます。
レンズは歪みが少なく視野角が広いVR専用設計の非球面光学レンズを採用。レンズの手前側には保護シートが張られているので、それを剥がしてから使用します。
また、フロントの上部には左右の目幅の調節、焦点距離を片方ずつ前後に調節できるピント調節機能があり、自分好みにカスタマイズが可能!
頭に装着するヘッドバンドにもアジャスターが付いているので、これも調節することで好みのフィット感を実現!
肝心の装着部分は柔らかく、通気性に優れたソフトレザー仕様。開口部は広めに作られているので、一般的な眼鏡であればかけたまま使用することができます。
そして、使用中はスマホが熱を帯びるので、熱がこもらないようにフロントパネルは取り外しが可能な放熱設計。蓋のサイド部分は空洞になっているので、ここからヘッドフォンのケーブル等を通すことができるのです!
それでは、見せてもらおうか。仮想現実、バーチャル・リアリティの性能とやらを……!
仮想現実に没入した感想
VR対応のコンテンツは現状そこまで多いとは言えないものの、無料でも楽しめるものは探せばいくらでもあります。私は手始めに海外や深海といった動画を再生することにし、VRゴーグルを装着!
すると……
おお!これは凄いぞ……!!
360°見渡せる景色。迫りくる自然の声。手を伸ばせば触れることができそうな“影”。まるで自分が、投影されている仮想の空間の中に入り込んでいるかのような、圧倒的な没入感……!
いてっ……
そして、360°の仮想現実を見渡しながら彷徨っている最中に部屋の壁にぶつかるというお決まりを演じ、軽く酔いを感じてきたので私は一度VR装置を外し、リアルに帰還。
これはまたしても、とんでもないものを手に入れてしまったようだ……
どうやら仮想空間にいた暫くの間、あまりの驚きで口が開きっぱなしになっていたようで、喉に渇きを感じる。
まさに未体験だった。私は未知の領域に足を踏み入れてしまったのです。
ただ、スマホVRにはある程度の限界があり、例えば、
- 自分から被写体に近付く、距離を詰めるなどの「位置トラッキング機能」はない
- 被写体が近付きすぎると見え方がブレることがある
- スマホのサイズによってはフレームなどが画面に映り込む
- iPhoneの場合はコントローラーとの互換性が悪く、動画サイトによってはほとんど使えない(androidは使える)
- スマートフォンの電池の消耗が激しい
などのデメリットはあるのですが、動画サイトによっては画面外に視点を合わせることでメニューを開いたり、スキップしたりできることもあるため、コントローラーが必要ない場合もあります。
また、高性能なヘッドマウントディスプレイとなると4~8万円ほどするのに対し、エレコムのVRゴーグルは2,000円程度で販売されているので、この価格であればデメリットを考えても十分すぎるほどの機能であり、VRの体験版としては申し分ないと言えるでしょう!
最近はVR対応のスマホアプリも増えてきているようですし、これさえあれば暫くはリアルから脱出し、仮想空間に逃げ込めるかもしれません。
禁断の領域、フルダイブに突入する日は訪れるか
しかし、暫くVRゴーグルを使用して仮想現実を楽しんでいると、私は突如として不可解な違和感に襲われ始めます。
そう、初めて体験した時のような驚きを感じないのです。
それは慣れてきたからとか、飽きてきたからとかではなく、もっと別次元の問題。根本的な部分にあるのではないかと思われました。そして私は、ついにその違和感の正体に気付く。
そうだ、五感の半分以上が死んでいるのだ。
VRによって作り出される仮想空間で使用できるものは現状、視覚と聴覚のみ。つまり、人に備わった触覚、味覚、嗅覚は現実世界に残され、視覚と聴覚だけが仮想現実へと転送されていることで生じる違和感だったのです。
確かに、目で見えるもの、耳で聞こえるものはまるで全てが目の前にあるかのように思える。しかし、肌で感じる風や日差しの暖かさ、口の中に飛び込んできた水しぶきや海の味、街を歩くと漂って来る美味しそうな匂いや自然の香りといったものは、あるはずなのにそこにはない。
そのちぐはぐさによって、五感の半分以上が、そして脳が、そこは現実ではないと言っていたのです。
恐らくこの違和感を完全に払拭するには五感を全て仮想空間へと転送する技術「フルダイブ」しかないだろう。しかし、私はこのフルダイブが実現すれば多くの人間がリアルを捨てていくようになるのではないかと思います。
なぜなら、現実世界なんてものは9割以上が辛く、楽しいことなんて1割以下しかないことだって珍しくはないため、楽しい仮想世界から戻ってくる必要性がないからです。
しかし、そうだからこそ、バーチャル・リアリティは仮想と現実の区別がつく違和感があるくらいがちょうどいいのではないかと私には思えました。
より高度な没入感を味わいたければ、Oculusシリーズでも割と安価な「Oculus Go」であったり、
被写体に近づくことができる位置トラッキング機能を搭載した「Playstation VR」だってあります。
それくらいでちょうどいいじゃないか、と思うのです。
確かに、ファンタジーの世界に行くことは現実では起こり得ない。夢かバーチャルの世界でしか実現することができないおとぎ話です。ただ、どう見てもファンタジーの世界にしか見えないような景色は世界中に存在し、その景色を見に行くことは自分の足ででき、その景色は自分の目で見て、自分の肌で感じることができるのです。
何らかの事情によって体の一部や感覚を失ってしまった方にとっては「フルダイブVR」は奇跡のツールになり得るかもしれない。ただ、体が動くのであれば、まだ見ぬリアルの世界を感覚ではなく血の通った肉体で見に行く方が先ではないかと、それが本当の楽しさであり幸せなのではないかと、私は思ったのです。
一説によればフルダイブの実現は2030年代とされています。が、行くべき場所は仮想ではなく現実にあるのではないか。VRはゴーグルやHMDをつけて遊んでいるくらいが一番ちょうどいいのではないかなと、実際に体験してみて私は思いました。
今回のまとめ
・あくまでも「仮想」がちょうどいいような気がする
・以下、ピグマリオン劇場ネタバレ注意
スタンリイ・G・ワインボウムの『ピグマリオン劇場』では、魔法の眼鏡を使用して仮想世界へと旅立った青年がそこで出会った女性に恋をするのですが、仮想世界から引き戻されることとなってしまった彼は、恋をした女性と引き裂かれたことで酷く落ち込んでしまいます。
しかしその仮想世界での出来事というのは、実は魔法の眼鏡を作った教授とその姪によって作り上げられた物語であり、教授の「彼女に会いたいかい?」という言葉に、青年は恋をした女性が現実に実在することを知り、幸せを感じるところで話は終わります。
これは、あくまでも幸せというものは現実世界にあり、仮想世界にはないのだという、ある種のメッセージのようにも私には感じられました。
人は1割以下の幸せだけでも、9割以上の苦難に耐えることができます。仮想現実に行けばその割合は逆転するかもしれない。しかし、そこに本当の幸せはないのではないかと思うのです。やはり私たちが生きるべきは、リアルの世界なのだろう。
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