カクテル(Cocktail)という言葉を直訳すると「雄鶏の尻尾」となるわけですが、実はこれには理由があった……?
バーで提供されているお酒は主に、ビールやワインなどの醸造酒、ウイスキーなどの蒸留酒、そしてスピリッツやリキュール等を何かで割るなどしたカクテルの3本柱で構成されているのが基本。
カクテルはつくり手の創意工夫、飲み手の好みによって様々な組み合わせが存在する、無限の可能性を秘めた飲み物。それ故に、幅広い層から愛されている飲み物でもあります。
しかし、カクテルとはそもそも何なのか?というのは実はあまり知られてはいないことでもあるので、今回はカクテルとは何かに焦点を当て、その定義や語源について迫りたいと思います。
カクテルの定義
お酒の飲み方は大きく分ければ2通りの方法しかありません。
1つ目はグラスにお酒をそのまま注いで飲む方法、ストレート(ストレート・アップ)で飲む方法です。
グラスから立ち昇る香りを楽しみ、酒そのものの味を生で味わう。私もお酒をテイスティングする場合はまずはストレートで飲むことにしているのですが、こういったお酒は飲み方そのままに、ストレート・ドリンク(Straight Drink)と呼ばれています。
そして2つ目は、氷や器具、副材料などを使い、お酒と何かをミックスしたものをグラスに注ぐ、またはグラスの中でミックスしたものを飲む方法。
シェーカーなどの専用器具、ソーダ水やフルーツジュースなどの割り物を使い、つくり手の理想、飲み手の好みにあった味に仕上げる。こういったお酒はストレート・ドリンクに対してミクスト・ドリンク(Mixed Drink)と呼ばれ、要するにこれが「カクテル」に当たります。
カクテル(Cocktail)という言葉は、古くは1748年にロンドンで出版された小冊子『The Squire Recipes』に登場し、少なくともその頃から言われ出した言葉であることは間違いないと考えられ、一般的な定義としては、ある酒に別の酒を混ぜたり、何かを加えて新しい味を創作した飲み物のことを言います。
つまり、カクテルとは「酒+何か(something)」であり、酒+何かで構成される「ミクスト・ドリンク」こそが「カクテル」であると言うことができるため、例えばウイスキーの水割りやソーダ割りもカクテルと言うことができます。
また、ウイスキーの飲み方の1つであるオンザロックも、ウイスキー+氷(何か)であり、時間の経過と共に溶けだした水(何か)と酒が融合していくことから、時間差で完成する一種のカクテルとして考えることもできるのです。
カクテルの語源と由来
カクテルという言葉が、いつ、どこで、どのようにして生まれたかというのは実は定かではなく、イギリス説、アメリカ説、フランス説、メキシコ説など、様々な言い伝えがあるのですが、未だにどれも定説とはなってはいません。
ただ、諸説ある中でも、世界的な組織である国際バーテンダー協会(IBA)がテキストに載せているものが一般的に良く知られているので、まずは代表として一番最初にその説を。また、それ以外にも支持されている有名な説が3つあるので、続いてそれらの説を。
合計4つの「カクテル」の語源となったと考えられている説を、ここからは順番にご紹介しよう。
1. 木の枝説
これは昔、メキシコ・ユカタン半島にある、優秀な船乗りや船大工がいることでも知られていた「カンペチェ」という港町に、イギリス船が入港してきた時の話。
上陸した船員たちは船旅の疲れを、そして喉の渇きを癒すために、街の酒場に入ることにしたのですが、彼らはそこで見慣れないものを目にします。カウンターの中で少年が、きれいに皮をむいた木の枝で美味しそうなミクスト・ドリンクをつくり、土地の人々に飲ませていたのです。
当時のイギリス人からすれば、酒というものはストレートでしか飲まないもの。彼らには酒を混ぜている光景が非常に珍しく映りました。
そこで、少年のつくっているドリンクが気になった1人の船員がこう聞きます。
それは何だい?
ところが、少年はドリンクの方ではなく、その時使っていた木の枝のことを聞かれたのだと思い、こう答えました。
これは、コーラ・デ・ガジョです
コーラ・デ・ガジョ(Cola de gallo)とは、スペイン語で「オンドリの尻尾」を意味する言葉であり、少年は木の枝の形が雄鶏の尻尾に似ていたので、そうした愛称で呼んでいたのです。
そして、このコーラ・デ・ガジョを英語に直訳すると、テール・オブ・コック(Tail of cock)となるため、これ以来、ミックス・ドリンクのことはテール・オブ・コックと呼ばれるようになり、やがてカクテル(Cocktail)へと変化したのです。
2. バー「四角軒」説
これはアメリカ独立戦争が最も激しかった頃の話。
ニューヨーク市の北にエムスフォードというイギリスの植民地があったのですが、そこに「四角軒」というバーがありました。店主はベティー・フラナガンという美人経営者で、独立軍の兵士たちに酒を振舞い、力づけていました。
そんなある日、彼女は反独立派の大地主の家に忍び込みます。雄鶏を盗み出してローストチキンにし、兵士たちに振舞ってあげようと思ったのです。
そして、彼女は見事な尻尾を持つ雄鶏を盗み出すことに成功。兵士たちは何も知らずにチキンをつまみに酒を飲んでいたのですが、さてもう一杯おかわりをと、彼らはバックバーに目をやると、なんと、そこにあったのはミックスされた酒のボトルに差してある「雄鶏の尻尾」だったのです!
そこで、兵士たちはチキンの正体を知って「コック・テール万歳!」と叫び、以降、ミックスされた酒を頼む時は、コック・テール(Cocktail)と言って注文するようになり、やがてカクテルとなったのです。
ちなみに、バーテンダーであれば多くの方が見たであろう、トム・クルーズ主演の『カクテル』では、トム・クルーズ扮する主人公の名前がブライアン・フラナガン。そう、四角軒の店主と姓が一緒なのです。果たしてこれは偶然の一致か、それとも……。
3. 王様命名説
これは昔、メキシコの先住民族であるトルテック族のある貴族が、酒をつかって珍しいミクスト・ドリンクを完成させた時の話。
ドリンクのでき上がりに満足した貴族は、この飲み物を自分の愛娘に持たせて王様に献上することにしました。すると、王様はこのドリンクを大いに気に入り、この飲み物に何か名前を付けようと考え始めます。
そこで、ふと王様の目に入ったのは目の前にいる貴族の娘。王様は娘に名前を尋ねると、娘はこう名乗ったのです。
「ホック・トル(Xoc-tl)です」と。
そして、それがそのままミクスト・ドリンクの名前として使われるようになり、後にこの飲み物がアメリカに渡って、カクテルと呼ばれるようになったのです。
また、この説にはいくつかのバリュエーションがあり、飲み物を王様に献上した娘の名前は「ホキトル(Xochitl)」だったというものや、アメリカ軍の将軍とメキシコ王との間で開かれた休戦協定の場という別のシチュエーションで、機転を利かせてその場を和ませた女性の名前が「コクテル(Coctel)」だったというものなどがあります。
いずれにせよ、王様が娘の名前から取った説ということです。
4. コクチェ説
これは18世紀末、カリブ海に浮かぶ島、ヒスパニョーラ島のサント・ドミンゴという場所で反乱が発生した時の話。
この時、命からがらアメリカへと逃げた人々がいたのですが、その中にアントワーズ・アメデ・ペイショーという男性がいました。彼はニューオーリンズに腰を落ち着けると薬局を開店、2つの目玉商品を生み出します。
1つ目は「ペイショービターズ」というカクテルなどに苦みを加えるリキュール。これは後に、世界最古のカクテルとも言われる「サゼラック」のレシピに使われることとなります。
2つ目はラムをベースにした卵酒。当時のニューオーリンズにはフランス人が多かったため、この卵酒はフランス語で「コクチェ(Coquetier)」と呼ばれていました。
そしてこのコクチェ、元々は病人用の薬酒として販売されていたのですが、味が良かったことから次第に人々は薬酒としてではなく、日常の飲料として愛飲するようになっていったのです。
すると、いつしか人々は酒をミックスした飲み物のことを「コクチェのような飲み物、コクテール」と呼ぶようになり、やがてカクテルへと変化したのです。
今回のまとめ
・カクテルの語源は諸説ある
・その中でも良く知られているのが「木の枝」説
カクテルの語源については諸説あり、例えば王様が命名したという説もそうですが、バー「四角軒」で提供されていたのはラム・パンチで大型のボウルに入れられていた、といったいくつかのバリュエーションや、その他にも紹介しきれないほど多くの説があるのですが、どれが本当かはわかりません。
ただ、こういった話が発生している場所や年代がバラバラであることからも、もしかすると大体が本当である可能性もあるわけで、そう考えるとカクテルを飲むのが楽しくなってきますし、新たな発見が生まれることもあるのです。
普段はカクテルは飲まないという方も少なくはないとは思うのですが、この機会にということで、たまにはカクテルを飲んでみるのもいいかもしれない。
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