鹿の島、ジュラ島で造られるウイスキー、アイル・オブ・ジュラ10年。初心者の方にもお勧めの1本だ。
スコッチウイスキーに分類されるシングルモルトの中では、ややマイナーな銘柄ではあるものの、初心者の方にはお勧めしたい1本がこれ、アイル・オブ・ジュラ10年。
人口よりも鹿が多いという少し変わった島で造られるウイスキーは、その野生的なイメージからは想像もつかないほど非常にクリアで飲みやすい。
今回はそんな魅惑の酒、ジュラの10年ものをご紹介しよう。
アイル・オブ・ジュラ10年
今回紹介するウイスキーはこれだ!
銘柄 | アイル・オブ・ジュラ10年 |
種類 | シングルモルトスコッチウイスキー |
生産エリア | アイランズ |
容量&度数 | 700ml 40度 |
スコットランドの西岸に連なる列島「ヘブリディーズ諸島」の内側、インナー・ヘブリディーズ諸島を構成する島の1つにジュラ島という島があるのですが、この島で造られているウイスキーこそがアイル・オブ・ジュラ。
ジュラという言葉を聞くと何だか恐竜を想像してしまいがちですが、この言葉は古代スカンジナビア語、ヴァイキングの言葉で「鹿」という意味を持っています。というのもジュラ島は、人口は200人強なのに対して野生の赤鹿が5,000頭以上も棲んでいるという、人間よりも鹿の方が多い島なのです!
ジュラ島へようこそ
この時点で既にこのウイスキーはアツい!
鹿に占領された島、「鹿の島」ジュラ島。そこでは、一体どのようなウイスキー造りが行われているのだろうか。
ジュラのウイスキー造りと歴史
島で唯一の蒸留所である「アイル・オブ・ジュラ」はクレイグハウスという村のはずれにあるのですが、現在に至るまでは決して順風満帆というわけではありませんでした。
ジュラ島でのウイスキー造りの歴史は長く、最古の記録では1502年というものがあり、ジュラ島ではウイスキー密造時代に突入する遥か以前からウイスキー造りが行われていたことが伺えますが、蒸留所が正式に創業したのは1810年のこと。
その後は1876年に蒸留所が建て替えられ、順調に蒸留を続けていたのですが、なんと地代のことで地主と揉め事が起きてしまい、蒸留所は1901年に閉鎖・取り壊しの憂き目に遭うこととなり、それから50年以上は蒸留所は閉鎖されていたのです。
しかし、鹿に愛された不屈の精神はこんなところで終わるはずがない。
1950年代後半になると、島民の雇用を促進するため2人の地主が再び蒸留所を建設。長きに渡る閉鎖期間を乗り越えた1963年、ジュラ島でのウイスキー造り最古の記録があった場所とほぼ同じ場所に、現在稼働する「アイル・オブ・ジュラ」蒸留所は完成したのです。
ジュラ島の著名人
ウイスキーを語る上で、意外と深い関係にあったりもするのが小説などの本。そう、ジュラ島には著名な作家が暮らしていた過去があるのです。
その著名人とは、『動物農場』でも知られるイギリスの作家、ジョージ・オーウェル。
彼は長年温めてきた作品を執筆するため、健康的で平和な場所を求めていました。そして見つけた場所こそがジュラ島、その最北端にあるバーンヒルのコテージだったのです。このコテージの10㎞四方には民家の一軒もなく、彼は理想の地に引きこもりました。
しかし、彼は結核を患っていたのです。
周囲に民家もないような地に治療に適した場所があるはずもない。彼は一度本土に戻り病院で療養するのですが、オーウェルは再びジュラ島に戻ってきたのです。そう、作品を完成させるために……!
ジュラ島に戻ったオーウェルは、死を覚悟したかのように治療は退け、執筆に専念。そしてユートピア(理想郷)とは正反対の社会である、ディストピアを描いた近未来小説『1984年』は遂に完成したのです。同作は、オーウェルの遺作となりました。
アイル・オブ・ジュラを飲みながら本を読むのであれば、同作品はこれ以上なく相性はいいかもしれない。
ジュラの進化と真価
遥か昔からウイスキー造りが行われ、著名な作家が晩年の地として選んだということは、ジュラ島はウイスキー造りには欠かせない、良質な水や清涼な空気に恵まれていたことを意味しています。
が、かつてはスタンダード品であるジュラ10年は、一般的には高く評価されてはいたものの、コアなウイスキー愛好家からするとどこか光った部分に欠ける、やや平凡なウイスキーとも思われていました。
しかし、侮ることなかれ。それは既に過去の話なのです。
1995年に蒸留所のオーナーがホワイト&マッカイグループに変わると、大きな変革が進められることとなり、ウイスキー製造200周年を迎えた2010年には蒸留所の大改造は完遂。
現在は麦芽の乾燥にピート(泥炭)を焚き込まないノンピートタイプに、ピートを積極的に焚き込んだヘビーピートタイプが加わり、熟成樽も大幅にアップグレード。特にスタンダード品の10年は熟成にバーボンカスクのみを使用し(旧ラベル)、より滑らかで良質な味を実現することに成功しました。
アイル・オブ・ジュラの進化は止まることを知らない。そして、その真価が発揮される時はきたのです。
味、飲み方、バーでの価格
さて、ここからはお待ちかね、ジュラ10年の味などを見ていこう。
ジュラ10年の仕込み用水は、標高300mにある湖から引いたピート層を通るやわらかな水を使用し、原料に使用される麦芽はピートを一切焚き込まないノンピートタイプ。
バーでの価格は1ショット大体900円前後で、800円であれば安いと思います。
そして気になる味はと言うと……
広がる甘さ、スムースな口当たり。それはまるで、優しき鹿の眼差しだ
(色)薄いゴールド
(香り)華やか、甘い食パンのような香り
(味)ライトボディ。甘さが口いっぱいに広がる。スムースでとても飲みやすい
(フィニッシュ)麦芽の甘さと塩っぽさ。スッキリとした切れ
ジュラ10年の口当たりはとても軽やかで、全体的に甘く、甘系ウイスキー好きにはもってこいの一品であると共に、飲みやすいので初心者の方への入門ボトルとしても適しています。甘さはクッキーやハチミツなど、そういった糖の甘さに近い。
また、ノンピートタイプなので、スコッチ特有のスモーキーフレーバーはあまり感じられないため、ウイスキーに手が出しにくいという女性の方にも、受け入れられやすい味わいだと思います。
飲み方はそのままでも飲みやすいため、ストレートやロックなどがオススメだ!
……何、イブスター店長が仕入れてきた情報によるとまだ何かあるようだ。なになに、ジュラ島にはもう1つの名物である標高700mを超える山地があり、その名も「ジュラの乳房」だって……?
一応、念のため、最後にこれも確認しておこう……。
一体いつから……山が2つだと錯覚していた?
そう、画像では少しわかりにくいのですが、実はジュラの乳房は3つの山から成り立っているのです!
とまぁ、冗談はさておき、味もさることながらボトルのデザインもボッテリとした曲線的なラインが美しく、見ていても楽しい。そして何より、野生の鹿が大量に棲んでいるという背景がグッド!
アイル・オブ・ジュラ10年はウイスキーが好きな方にも、ウイスキーが初めての方にもお勧めできる1本。野生の鹿を想像しながら飲んでみてほしい。
コメント(確認後に反映/少々お時間をいただきます)