【カエルの楽園】良くも悪くも人の心や感情を揺さぶる力がある寓話小説

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カエルが苦難を乗り越え、ついに安住の地にたどり着き、そこで平和に暮らしましたとさ……という話ではなかった。

これはすばらしいと絶賛する声から、これはひどいと酷評する声まで、評価が真っ二つに分かれているようでもある『カエルの楽園』。

記念すべき書評一発目。これは、逆にふさわしいのかもしれないような気もしてきたので、今回は百田尚樹著『カエルの楽園』についてご紹介したいと思います。

はたして、本書は「警世の書」となるのか、それとも……。

目次

カエルの楽園

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「これほどの手応えは『永遠の0』『海賊とよばれた男』以来。これは私の最高傑作だ」

とのことで、以前読んだ『海賊とよばれた男』を超える「最高傑作」とはいったいどれほどのものなのか、と私は期待を胸に本書を手に取りました。

本の帯には、全国民に問う、衝撃の結末。平和とは何か。愚かなのは誰か。大衆社会の本質を衝いた、寓話的「警世の書」、などと、インパクトのあるキャッチコピーがずらずら。

あらすじも帯に書いてありました。

安住の地を求めて旅に出たアマガエルのソクラテスとロベルトは、平和で豊かな国「ナパージュ」にたどり着く。そこでは心優しいツチガエルたちが、奇妙な戒律を守り穏やかに暮らしていた。ある事件が起こるまでは――。カエルの楽園 帯文

なるほど、これはおもしろそうです。動物が出てくる話はだいたい外れないですからね。ちなみに、私は事前知識ゼロで読み始めたのですが、同じくなにも知らない状態で読みたいという方は、ここからは飛ばしてください。

軽いネタバレを含みますので。

登場人物などの解説

本書は読み進めていくうちに、なんの話をしているのかはだいたいわかってくると思います。カエルの国、そこで暮らすカエルたちをたとえ話に、現代社会に警鐘を鳴らしているのです。

わざわざ読み返すのが面倒くさいという方は、事前に登場人物などを知っておけば、話の内容はすっと頭に入ってくると思うので、いくつか解説しておきます。

ナパージュ

主人公のアマガエル、ソクラテスとロベルトがたどり着いた国「ナパージュ」は日本のこと。「JAPAN → NAPAJ」ということでしょう。

平和ボケしたツチガエルたちは日本人のことを指し、その姿は皮肉交じりに、そして滑稽に描かれています。

三戒

ナパージュのツチガエルが守る奇妙な戒律とは、「カエルを信じろ、カエルと争うな、争うための力を持つな」というもので、「三戒」と呼ばれています。

その徹底ぶりはすさまじく、3つ目の争うための力を持つな、ということに関しては、カエルが持つ毒腺を子どものころに封じてしまい、牙を失ったふぬけにしてしまうというほどのもの。

ただし、全国民が三戒を信仰しているのかというとそうではないようで、これは日本が戦争を行わないために規定した憲法を指しています。

ウシガエル

あらゆるカエルを飲み込む巨大で凶悪なカエル。

ウシガエルは、彼らが持つ強大な力で縄張りを次々と広げていき、ナパージュもその手におさめようと、虎視眈々と南の沼からツチガエルを狙っているのですが、なかなか手を出すことができません。

これは中国(人)を指しているようです。

スチームボート

かつては敵なしだった巨大なワシ。

以前、ナパージュにやって来たとき、ツチガエルによってたかって攻撃されたことに腹を立て、ツチガエルをボコボコにしたところ、ツチガエルは抵抗するのをやめて場所を提供。それからは、第2の住み家としてナパージュに住んでいます。

そして、「三戒」をつくらせたのはじつはスチームボートで、ウシガエルがナパージュに手を出せないのも、彼がナパージュを守っていたからにすぎなかったのです。

これはもう思いっきりアメリカのことでしょう。老いてきているため、彼にも敵はいるそうです。

デイブレイク

ナパージュで一番の物知りといわれる、でっぷりと太ったツチガエル。

国民に三戒のすばらしさを日々説いている一方、反対意見を持つ者には支持者を使って脅しをかけ、言論を弾圧してしまう恐ろしさを持っています。もはやその言動は国民を洗脳しようとしているようにしか見えません。

ちなみに、「day break」とは「夜明け」を意味する言葉で、「日の出」「朝」などの言葉が連想できるように、某新聞社を指している模様。

ハンドレッド

年中、ほかのカエルの悪口やら、でたらめを言いまくっているというナパージュいちの嫌われ者。

しかし、このような発言も。

「ひどい国だが、俺はこの国が好きなんだ。それに――ここが俺の国だ」カエルの楽園 p.232

悪態をついているのは、国のためということでしょうか。ちなみに「hundred=100=百」ということで、これは著者のことでしょう。

プロメテウス

あらすじにあった「ある事件」とは、ウシガエルがナパージュに侵攻を始めたことだと思われますが、その対策を練るため、ナパージュでは元老会議(国会のようなもの)が開かれることになります。

そして、元老のなかでもいちばん若いプロメテウスは、自分たちの身を守るために、スチームボートとの協定の締結、三戒の破棄などを提案します。

これは憲法改正を訴える時の首相か、もしくは某政党のことだと思われます。

ハンニバル、ワグルラ、ゴヤスレイ

長男のハンニバル、次男のワグルラ、三男のゴヤスレイは、生まれながらにして屈強な体を持った3兄弟のツチガエル。

「三戒」を破ってウシガエルと戦えば、おそらく縛り首にされるであろうことはわかっていながらも、父の教えに従い、仲間が殺されそうなときには戦う覚悟を決め、来たるべき時に備えて日々体を鍛えています。

これは陸上・海上・航空自衛隊のことでしょう。

ローラ

メスのツチガエル。頭の中はお花畑ですが、平和を愛する本作のヒロイン的存在。

ナパージュには「三戒」があるから安全、「三戒」があるから大丈夫、と信じ切っています。

その他

そのほかには、エンエン(韓国)、フラワーズ(SEALs)、プランタン(村上春樹氏)など、いろいろ出てくるのですが、主要な登場人物(国)はだいたいこんなところです。

総評&感想

当初は、ビールだと思って飲んだら、ジョッキに注がれたサラダ油だった、とでもいったような読後感で、こういうのを求めていたわけではなかったのですが、時間が経つにつれて、やっぱりおもしろかったのではないかと、ジワジワ思えてくるような本でもありました。

当ブログでは、政治がどうこうという話をする気はなく、私も政治について語るような人間ではないので、ここまで政治色が強い本だと知っていれば、おそらく読むことはなかったと思います。しかし、そこはあえて寓話小説にすることで、私のような人間の手にも渡っているので、そこはポイントが高いということができます。

本の帯には「衝撃の結末」と書かれていました。この流れでいけば、そうだよな……といった順当な展開ではありましたが、たしかに衝撃的な結末。ところどころにショッキングな描写があり、それらがいいあんばいにスパイスとなっていたので、読み飽きることもありませんでした。

また、いい意味で、読んでいてイライラしたり、ストレスがたまりました。ナパージュのカエルの平和ボケ具合に。

物語の途中、デイブレイクを筆頭に「三戒」を守る派のカエルたちは凶暴化し始めるのですが、「こいつらこそ早くウシガエルに喰われてくれないかな」と思わせるほどのもどかしさがあります。

それもそれで、すごいことなのかもしれません。

読んでいてなにも感じないまま終わる本ではなく、良い悪いの方向性はひとまず置いておいても、人の感情を揺さぶる力がこの本にはあります。憲法や政治がどうとか、あまり興味がないような方でも、自分の国をバカにされたような感じになれば、少しはイラッとするでしょう。身内を悪くいわれるような感じで。

そして、少しでもイラッとすれば、著者の思惑どおり、ということなのでしょうか。

ただ、いちおう「この物語はフィクションであり、実在の……」というお決まりの注意書きはあるものの、ほぼ名指しで特定の人物や団体を批判しているような内容でもあり、思いっきりすぎて、これはどうなのか……と感じる部分も。

批判された側、著者の意見には反対派の方からは、本書は「悪魔の書」と見なされ、下手すると燃やされる、いや、そこまではされないとは思われますが、そういった扱いを受けてしまう可能性もあるように感じられました。

そういったこともあって、当初は「これは違うか?」と感じたのかもしれませんが、全体をとおして読みやすく、もちろん個人の考え方による部分はあれど、子どもから大人まで読める内容でもあると思います。

現在はコロナ禍を描いた『カエルの楽園2020』も発売されているそうなので、気になる方はこちらもあわせてチェックしてみてください。

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