時は遡ること2014年の夏。何の前触れもなくコロナビールは街から、そしてバーから姿を消した。
2020年、新型コロナウイルスの爆発的な流行により、最も風評被害を受ける可能性が高いと思われたのが、我らがコロナビール、コロナエキストラでした。
そう、ビールの名前がウイルスの名前とモロ被りしているのです。
実はコロナに関しては以前にも謎に包まれた事件がありました。今回の件では風評被害を受けているとも報じられましたが、これに触れるに当たって、過去の事件も併せて振り返っておきたいと思う。
2014年、コロナビール消失事件
「コロナは現在欠品しております。入荷次第お届けします」
うだるような暑さが続いていた2014年の夏、発注していた酒の納品書にはそれだけの説明書きがあり、注文していたコロナビールは来ていませんでした。
またかいな……
実は当時、私が勤務していたバーは仕入れを頼んでいた酒屋がいい加減な所だったため、こういった欠品が物凄く多く、ウイスキーなどの蒸留酒はまだしも、瓶ビールや場合によってはソーダやトニックまでも切らしているなど、とにかく注文していたものが届かないといったことが日常茶飯事と化していたのです。
よって、私はいつものことかと特に気にすることもなく、次回の発注日までコロナの到着を待ちます。
しかし、待てども暮らせども、一向にコロナが入荷される気配はありません。
何かがおかしい。そう思い始めると、次第に周辺の飲食店やバーでもコロナが入荷されていないという声を聞くようになりました。
そこで、気になり始めた私はコロナビールが品薄になっている原因の調査を開始。すると、聞こえてきたのはにわかには信じがたい話だったのです。
1. ワールドカップでのメキシコ快進撃説
コロナビールが品薄となり始めたのとちょうど同時期、巷ではサッカーワールドカップ2014が開催されていたのですが、グループリーグでのグループAは「ブラジル・メキシコ・クロアチア・カメルーン」と強豪国が揃い、激戦必至となる組み合わせとなっていました。
そして試合が始まると、なんとメキシコはブラジルとは引き分け、クロアチアとカメルーンには勝利を収めるという快進撃を続け、見事ベスト16に進出することとなったのです。
すると、この快進撃に沸いたメキシコ国民はコロナビールを大量消費。自国を応援するために働くのを止め、コロナビールの工場が閉鎖となる事態にまで発展したと言うのです!
いや、そんなことあるか……?
流石にそんな根も葉もない噂を信じられる訳がない。私はさらに聞き込みを進めます。
2. コロナビール貨物船の荷崩れ説
さらに調査を進めていくと、バー関係者や、信用できる酒屋からの情報が合致し、私は以下のような話に辿り着きます。
「コロナビールを輸送している貨物船が荷崩れ(転覆?)を起こし、暫くの間は日本に入荷する分がない」
なるほど、これは何となく納得ができる。友人バーテンダーも仕入先の酒屋から同じことを聞いたらしく、この説が最も有力なのではないかと。
貨物船の荷崩れによって、コロナビールは海の藻屑となった……。
うだるような暑さをさらに熱くさせるような超展開。もうこれでいいか、いや、むしろこれでいいよと私は調査を切り上げ、数か月の品薄状態が続いた後、コロナビールは再び日本に帰ってきたのです。
2020年、コロナビール風評被害直撃か
そして来たる2020年。新型コロナウイルスの世界的な流行により、名前がモロ被りしているコロナビールを敬遠する動きが広まっているという噂が流れ始めました。
ベルギーに本社を置く世界最大の酒類メーカーであり、コロナビールの販売も手掛ける「アンハイザー・ブッシュ・インベブ」は、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響によって、2020年の最初の2か月だけで2憶2,100万ポンド(約310憶円)の売上が失われ、その後も、特に中国全土での収益の損失を予測しているとしました。
また、米国内ではビール愛好家737人を対象に聞き取りを行った結果、米国人の38%が「いかなる状況」でもコロナを買わないとし、14%は公の場でコロナを注文しないとの回答を得たとしています。
さらに別の調査では、消費者のコロナビールに対する購入意欲がここ2年で最低水準に陥ったという報告まであるというのです。
(参考:Makers of Corona report £132,000,000 loss as a result of coronavirus/新型コロナウイルスの感染拡大、「コロナビール」の販売にも影響?)
特に中国は新型コロナウイルスの中心地でもあったことから、中国市場におけるコロナビールの需要は店舗、家庭の両方で大幅に減少。さらにウイルスの発生時期が中国の旧正月と一致してしまったため、さらに被害が大きくなってしまったのだそうです。
しかし、アメリカの場合はというと、実は調査結果とは相反する結果が出ていると言うのです。
またしてもデマなのか!?
米国人の不買によってコロナビールは風評被害を受けそうになっている一方で、この調査に関しては、米国でのコロナビールの販売を担う「コンステレーション・ブランズ」社の最高経営責任者(CEO)が反論し、この調査は同社の事業業績を反映しておらず、新型コロナウイルスによるコロナビールの誤解は極めて不適当としています。
というのも、同社によればコロナビールの売上は2020年2月までの4週間で5%上昇し、これは過去52週間の業績と比べてほぼ倍の水準だと言うのです。
そう、コロナビールは逆に売れているのです。
恐らく中国での減収は販売メーカーの公表なのでそうなのでしょう。しかし、アメリカの調査結果は真実の真逆を行くフェイクニュース、もしくは情報の一部だけを切り取った誤情報。風評被害を煽るだけの、全くのデマだったと思われるのです!
それでは、なぜこうも早い段階でアメリカ人はフェイクに気付いたのか。私は、恐らく彼らも既に気付いているからだと思います。何でもかんでも不謹慎だという人間の方が不謹慎だということを。
愛せよ、コロナビールを
特に今回のような感染拡大や自然災害時などは、全くもって関係のないものでもそれを口にすることが不謹慎だと、不買などの風評被害に繋がってしまうことがあります。
確かに、今回の新型コロナウイルスで言えば、世界中がパニックに陥り、多数の死亡者を出すなど、公の場で「コロナ下さい」といった、その名を口にできないような雰囲気となってしまっている可能性は否定できません。
が、それとこれとは全くもって別の話でしょう。
コロナビールには何の罪もありませんし、新型コロナウイルスとは何の関係もありません。ただ、名前が一緒だっただけなのです。
「こんな時にコロナを飲むなんて不謹慎。こんな時に酒を飲むなんて不謹慎だ」
いや、違うだろう。何の罪もない酒に罪をなすり付け、無関係なものまで排除しようとすることの方が不謹慎なのではないか。
コロナビールを飲んでコロナウイルスに打ち勝つ。それくらいの気概でいいじゃないかと私は思います。というか、アメリカ人はそんなことを考えているからこそ、逆に売上が上がっているのではないでしょうか。
いずれにせよ、米国では、愛すべき我らがコロナビールの風評被害がデマであってよかったと、私は思った。
今回のまとめ
・2020年、コロナウイルスと名前モロ被り事件
・20xx年、次は一体何が来るのか
米国で起きたとされるコロナビールの風評被害はまたしてもデマでした。そして私が思うに、中国の場合も風評被害というよりは、人々や経済、その全てがパニックに陥ってしまっているため、それどころではないというのが最もな原因だと思うのですが、それは定かではありません。
いずれにせよ、特にこういった緊急時は噂が噂を呼び、場合によっては何ら関係のないものにまで風評被害が及んでしまうことがあります。
デマに流されてはいけない。そして、デマを信じてはいけない。
かつて海の藻屑となって沈んでしまったコロナビールを、デマによって再び沈めてしまってはいけないのです!今日は、コロナビールを買いに行こう。
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