酒飲みは言った。酒を飲んでいれば細菌やウイルスを殺菌することができる。体の中までも消毒できるのだと……!
細菌やウイルスの流行時は、感染者の手などを介してウイルスが不特定多数の人が触れる物に付着したり、感染者の咳やくしゃみが飛沫となって人の口の中に入ったりするため「うがい、手洗い」が推奨されています。
しかし、強力なウイルスが蔓延しているとなると、私たちは日常的に唾を飲み込んだり、飲み物を飲んだりするので、口内に入るウイルスは特に気になるところ。
そこで、酒飲みはこう考えたのです。酒を飲んでいれば、酒に含まれるアルコールの殺菌作用で喉や口内、場合によっては体の中までも消毒できる、と。
果たしてこれは酒飲みの戯言、ただのトンデモ理論なのか。それとも、場合によっては効果あり、一理あると言えるのか。今回はこの「酒を飲んで消毒説」について迫りたい。
酒のアルコールで体内を殺菌、消毒はできるのか
お酒に含まれるアルコールは「エタノール」という化学成分であり、エタノールには細菌やウイルスなどを殺菌、消毒する効果があるので、身近なところでは消毒液として利用されていたりもします。
日本では「日本薬局方」という基準によって、消毒液のアルコール濃度は最も消毒効果が高いと考えられている76.9~81.4%で調整されているのですが、実はアルコール濃度が60~80%の間であれば殺菌効果があることも判明しているのです。
そこで、①エタノールには消毒効果があり、②基準のアルコール濃度より低くても殺菌効果がある、のであれば、アルコール度数が40度前後、またはそれ以上・それ以下の酒を飲むことで、口内に潜む細菌や、体内に侵入したウイルスを殺菌・消毒することができるのではないかと、酒飲みたちは考えたのです。
確かに、この「酒を飲んで消毒説」からは可能性しか感じられないのですが、実はこの説については「Science alert」という海外の化学研究・情報サイトにも詳しい記載があり、これを要約すると以下の通りとなっています。
- 赤ワインには強力な抗菌作用がある
- アルコール濃度が上がるほど抗菌作用も上昇
- 高濃度のアルコールは胃へのダメージにも
それぞれ詳しく見ていこう。
1. 赤ワインには強力な抗菌作用がある
ワインは人類が初めて口にした酒であると考えられていて、昔から殺菌作用があることでも知られていました。歴史的な記録によると、3世紀、ローマの将軍は健康の維持や赤痢(細菌感染症)を防ぐため、兵士たちにワインを勧めていたといいます。
しかし気になるのは、本当にワインには殺菌作用があったのか?という疑問ですが、実はこれに関しては、1988年に行われた研究の一環による調査で解明されています。
その調査というのは、ワイン、ビール、炭酸飲料、スキムミルク、水などの一般的な飲料に、サルモネラ菌、赤痢菌、大腸菌などの感染性腸内細菌を加え、ワインの抗菌作用を調べるというものでした。
そして2日後にそれらを観察してみると、赤ワインに加えられた細菌は最も大きな打撃を受けていたのです。ビールと炭酸飲料にも効果はありましたが、ワインほどではありませんでした。
そこで研究者たちは、ワインの何が抗菌効果をもたらしているかを解明するため、数年後に赤ワインと、それと同じ酸性・アルコール濃度の溶液に、サルモネラ菌を加えて再び調査。
すると、やはり赤ワインに加えられた細菌の方が打撃を受けていたことから、赤ワイン自体に強力な抗菌力があり、その抗菌効果の大部分は、酸性とアルコール濃度に起因していることが判明したのです。
2. アルコール濃度が上がるほど抗菌作用も上昇
消毒液にも使用されているように、アルコール濃度は抗菌・殺菌作用には重要な要素であることは広く知られていて、手指を消毒するのであれば60~80%の高アルコール濃度が最適だと考えられています。
それでは、アルコール度数がそれよりも低く、手ではなく口の中を殺菌しようとした場合はどうなるのだろうか。
実はこれも研究によって既に明らかにされていて、1996年に論文が発表された口内細菌に対するアルコールの殺菌作用を調べた調査では、アルコール度数が40%未満になると細菌の繁殖を抑える効果が大幅に弱まり、度数が10%になるとほとんど効果がなくなることがわかりました。
また、アルコールの暴露(ばくろ)時間も重要であることが判明し、40%のアルコール度数の場合、15分以上であれば6分の時と比べて細菌の繁殖を抑制する効果が大幅に上昇。
そして、度数が40%のアルコールには、少なくとも1分間の暴露時間で口内細菌を殺菌する効果が多少はあることが判明したのです。
3. 高濃度のアルコールは胃へのダメージにも
アルコール度数が40%で口の中の細菌を殺菌・消毒することができるのであれば、ジンでも、ウォッカでも、ラムでも、好きなものを自宅に置いておいたり、場合によってはスキットル(蒸留酒を入れる水筒)などに入れて持ち歩いたりして、暫く口の中に含んでおけばいいのでは!?とも思えるのですが、それは少々リスキーかもしれない。
というのも、これも研究によって健康へのリスクが明らかにされているからです。
47名の健康なボランティアを対象にした実験では、胃カメラを飲んだ被験者の胃の下部に様々な濃度のアルコール(4%、10%、40%)と生理食塩水を直接スプレーしたところ、アルコール濃度が高いほど胃粘膜には血液を伴う損傷が見られ、10%以上の濃度によるダメージの治癒には24時間以上が必要となったのです。
また、小腸には同様の損傷は確認されなかったのですが、過剰なアルコールの摂取は小腸内の細菌を必要以上に増やしてしまう可能性があり、場合によっては下痢、吐き気、嘔吐などの胃腸症状を引き起こすこともあるといいます。これはアルコール依存症患者にもよく見られる症状で、逆に健康を害してしまう危険性が判明したのです。
(参考:Science alert‐Does Drinking Alcohol Actually Kill Off Your Sore Throat Germs? Science Explains)
(結論)一定の効果はあると思われるが、リスクが高い
赤ワインを始めとしたお酒に含まれるアルコールには細菌を殺菌・消毒する効果があり、アルコールの度数が高ければ高いほどその作用も強くなっていくため、理論上は飲み込んだ(または少なくとも1分間は口の中に入れた)お酒の度数が十分に高ければ、多数の腸内細菌や、口内の細菌を殺菌することはできると考えられます。
ただ、お酒を口に含むだけでも舌からアルコール成分は吸収されていくため、飲むことを目的とせずに口をゆすぐ目的として利用したとしても、それが日常的に繰り返されるとなると胃腸内壁の損傷に繋がり、逆に健康を害してしまう可能性は否めません。
特に酒でうがいをしようなんていうのはさらに危険で、アルコール度数が高ければ喉や食道粘膜へのダメージにも繋がる危険性もあるのです。
よって、「酒を飲んで消毒説」は一理あるとはいえ、胃散りとなってしまう可能性。細菌感染の予防のためにやっていたはずが、体を壊して本末転倒となってしまう危険性があるので、やはりお酒で口の中を殺菌するなんてことはやめ、お酒を飲む時も適量を嗜むことにした方が良さそうだ。
今回のまとめ
・抗菌目的の飲酒は胃腸へのダメージとなる危険性がある
・一理あるが、胃散りもありえる
細菌やウイルスの流行時は「うがい、手洗い」が重要ですが、体内、特に口内をお酒で殺菌、消毒しようとするとそれなりのリスクが伴う危険性があります。
それに、実際にアルコール度数が40%のスピリッツなどを口の中に含んでしばらくゆすいでみればわかるのですが、お酒が口の中に含まれている間は舌がピリピリしますし、吐き出した後も舌のひりつきや、アルコールも暫くは口の中に残るため、結構ツライです。
正直言って、1分でもツライです。
近年ではアルコール含有の洗口液も含まれていてもごく微量、もしくはノンアルコールが主流となってきているといいます。口をゆすいだり、うがいをするのであれば、水でも十分効果はあるといいますし、それだけでは不安ということであれば、同じく抗菌・抗ウイルス作用がある緑茶などを活用した方が良いかもしれません。
手指や物の消毒にお酒が使える可能性について
→【お酒】消毒液がなければ高アルコール濃度のスピリッツでも代用可能!
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