飲めたものではないと虐げられてきた者たち。彼らの真価が、ついに発揮される時が来たのかもしれません。
2020年、新型コロナウイルスの世界的な蔓延により、ドアノブやエレベーターのボタン、テーブルなどに付着したウイルスが接触感染の原因となってしまう恐れがあることから、消毒用のエタノール(アルコール)が完売。一時入手が不可能という状況になってしまいました。
見えないウイルスという存在から身を守れるものがない。不安が募るばかりです。
しかし、身近に消毒液がなかったとしても、消毒液の代わりとしてウイルスを撃退できる可能性がある最終兵器が存在するのです。今回は、そんな緊急事態を乗り切るべく、日本の酒造メーカーによって生み出された強力な武器と、その使い方についてもご紹介したいと思います。
酒が消毒液の代わりになる可能性
そもそもの話、消毒液とはなんなのかというと、エタノール、もしくはエタノールとその他のアルコールを水で希釈した消毒用アルコールのことをいいます。
エタノールとはアルコールの一種であり、お酒にも含まれている、酒を酒たらしめる化学成分のこと。つまり、消毒液に含まれているアルコールの成分(エタノール)は、じつはお酒に含まれているアルコールの成分と一緒なのです。
それがどれくらい一緒なのかというと、消毒液のなかには酒税がかかるものもあるほどです。それから、なぜ消毒液にエタノールが利用されているのかについては、エタノールにはウイルスなどに効く高い殺菌作用があるからです。
日本では厚生労働省が定めた「日本薬局方」という基準により、消毒液のアルコール濃度は、最も殺菌効果が高いと考えられる、76.9~81.4%のあいだで調整されています。
そこで、これらのこと、消毒液とお酒に含まれているアルコール成分が同じものであるという事実から考えるに、以下のような可能性が出てきます。
「アルコール濃度を調整すれば、酒を消毒液の代わりとして使用できるのではないか」
理論上はお酒に含まれるアルコール(エタノール)にも殺菌作用はあり、お酒の抗菌作用については研究であきらかにされているものもあるため、消毒液の代用品となる可能性は十分にあると思われるのです。
事実、この件に関しては、エタノールなどの普及・研究等に従事する一般社団法人アルコール協会が「一定の消毒効果は見込める」という旨の回答をし、のちに厚労省によっても正式に代用が認められ、エタノールの成分が新型コロナウイルスに対しても有効であることが研究によって判明しました。
そう、飲めたものじゃないと虐げられてきた高濃度のスピリッツたち。彼らが日の目を見る時が、本当の意味で火を噴く時が、ついに訪れたのです……!
日本の酒造メーカーが生み出した強力な武器
お酒(スピリッツ)を消毒液の代用品として使用することには科学的な根拠もあり、のちに国からも使用が正式に認められることとなったわけですが、高濃度のスピリッツというものはじつはそこまで多くはなく、消毒液の次はスピリッツまでもが売り切れとなる事態が発生。
そこで立ち上がったのが、日本の酒造メーカーでした。
全国でお酒を造る各酒造メーカーは、この消毒液が全国的に不足する事態を受け、なにかできることはないか、酒造りの技術を役に立てることができるのではないかと考え、消毒液の代用を目的とした高濃度スピリッツの生産に着手し始めたのです。
当初は、ほんのいくつかの酒造メーカーが始めた消毒液の代用品づくり。
しかし、採算度外視で人のために代用品をつくるメーカーに触発され、1つ、また1つと代用品をつくるメーカーは増えていき、ついには、消毒液の不足状態が解消されつつあると思えるほどに、代用品が各メーカーから販売されるまでにいたりました。
日本の酒造メーカーと、消毒液の代用品としてつくられた酒(スピリッツ)が、国と、そして人を救うのです。
アルコール度数「80度」以上のスピリッツたち
それでは、ここからは、既存のものと、日本の酒造メーカーによってつくられた高濃度スピリッツをご紹介していきます。
なお、高濃度のスピリッツにはさまざまなものがありますが、スピリッツはその製法上、味や香りをつけるための添加がなされていることもあり、ものによってはスピリッツに含まれる糖分などが、拭いた箇所でベタついてしまうことがあります。
そのため、消毒液として代用するのであれば、無味無臭のものや、ウォッカが最適と思われるので、そういったものを中心に、アルコール濃度の度数に分けて、お酒をご紹介していきたいと思います。
〇.スピリタス(96度/500ml)
スピリタスは言わずと知れた世界最強のスピリッツで、原産国はポーランド、アルコール度数は破格の96度を誇ります。
その製法は、穀物を原料に蒸留を重ねることなんと70回以上。極限まで高められたアルコール度数は水とアルコールの混合物の限界値に達しました。
消毒液の代用として使用する場合は、スピリタス4:水1で76.8%の液体ができるので、少し細かいですが、スピリタス82ml:水18mlで消毒液推奨濃度の78.72%の液体が100mlできることになります。
X.バルカンウォッカ(88度/700ml)
スピリタスの知名度によって隠され、あまり知られていないものの、世界ナンバー2のアルコール度数を誇るウォッカが、ブルガリア産のバルカンウォッカ。
バルカンウォッカは、ブルガリアの良質な大麦を原料に、3回連続蒸留で造られるプレミアムウォッカで、蒸留後は同じく国内で作られた白樺の活性炭で濾過。その後、88度にアルコール度数を調整してボトリングされる、良質な麦の旨味を味わえるウォッカです。
しかしながら、そこまでメジャーではないこともあってか、市場に出回っている流通量は少なく、入手できない状況が続いています。
〇.ドーバー スピリッツ88(88度/700ml)
世界ナンバー2のアルコール度数を誇るバルカンと同じ度数、つまり88度の同着ナンバー2が、ドーバースピリッツ88。
ドーバー(Dover)は日本唯一の製菓業界向け洋酒メーカーであり、世界から洋酒の直輸入を行う一方で、日本国内でも洋酒の製造を行っているメーカーです。国内で製造されるドーバースピリッツ88は、原料はワイン等のフルーツ系洋酒の原酒を利用して造られているため、保存効果にも期待できます。
消毒液の代用として使用する場合は、バルカンウォッカと同じく、ドーバースピリッツ9:水1でアルコール度数79.2%の液体ができるので、ドーバースピリッツ90ml:水10mlで、推奨濃度79.2%の液体が100mlできることになります。
★.アナーキー82(82度/500ml)
品薄のスピリタスの代用品として注目され始めたのが、こちらのアナーキー82(ノット・サティスファイド)。
アナーキー82は、日本のパンクバンド「ANARCHY」の公式アルコール飲料としてつくられたウォッカで、原産国はスピリタスと同じポーランド。同バンドの代表曲を名に冠しています。
消毒液の代用として使用する場合は、アナーキー19:水1でアルコール度数77.9%の液体ができるので、アナーキー95ml:水5mlで、推奨濃度77.9%の液体が100mlできることになります。
ただし、厚労省の特例によって、原則83度までの代用が認められたので、希釈せずにそのままでも使用できます。
★.佐多宗二商店 ジャパニーズエタノール80(80度/720ml)
晴耕雨読などの焼酎を製造していることでも知られる鹿児島の酒造メーカー、佐多宗二商店からは、「角玉ウォッカ80」というものが以前販売されていましたが、それの後継品として「ジャパニーズエタノール80」というものが販売されています。
アルコール度数は80度と消毒液推奨濃度を満たしているので、そのまま消毒液の代用品として使用できます。
アルコール度数「70度」以上のスピリッツたち
2020年、新型コロナウイルスによる需要の急増から、全国各地で手指消毒用エタノールが不足する事態が発生しました。
そこで、厚生労働省はこうした状況を改善するため、「医療機関等において、やむを得ない場合に限り、高濃度エタノール製品を手指消毒用エタノールの代用品として用いることは差し支えない」との通達を関係各所に行いました。
代用品として使用するお酒は原則としてアルコール度数が70~83%の範囲内とし、お酒のラベル等に「本製品は医薬品、医薬部外品ではありませんが、消毒用エタノールの代替品として、手指消毒に使用することが可能です」といった記載も許可することを決定したのです。
そこで、ここからは、厚労省によって認められた、アルコール度数が70度以上のスピリッツたちをご紹介します。
〇.菊水酒造 アルコール77(77度/500ml)
全国各地で消毒液が不足するなか、この逼迫(ひっぱく)した事態を打破するため、早い段階から動いていたのが高地のメーカー、菊水酒造でした。
菊水酒造は、2018年に豪雨によって甚大な被害に遭うも、各方面から大きな支援を受けたことで復活。その恩返しにつながればとの思いから、2020年4月、関係省庁の指導のもとで「アルコール77」を完成させました。
アルコール77の度数は、その名の通り消毒液推奨濃度の77度。原材料は醸造アルコールと香料のみとなっています。
〇.笹一酒造 笹一アルコール77(77度/500ml)
山梨の酒造メーカーである笹一酒造も、消毒用エタノールの全国的な品薄を受けていち早く動いていたメーカーの1つです。
出荷を開始した「笹一アルコール77」は、さまざまなメディアでも取り上げられ、当初は直売店のみでの販売だったため、入手は困難となっていたのですが、その後全国に向けても出荷することができるようになりました。
工場に隣接した「酒遊館」も人気の酒蔵です。
〇.瑞鷹株式会社 G.H.75(75度/500ml)
熊本の酒造メーカーである瑞鷹株式会社は、焼酎やリキュールの原料として使用される原料用アルコールを、清らかに澄んだ熊本の地下水で割ることで高純度の蒸留酒として製品化。ここに「G.H.75」は完成しました。
アルコール度数は高濃度の75度で、G.H.75は数量限定の受注生産品だそうですが、まだ入手することができます。
〇.宮下酒造 酒蔵スピリッツAL78(78度/500ml)
日本酒では「極聖」、地ビールでは「独歩」などで知られ、さまざまな酒類の製造・販売を手掛ける岡山の酒造メーカー、宮下酒造からは「酒蔵スピリッツ アルコール78」が登場。
アルコール特有のにおいを抑えるため、レモンとゆずのフレーバーを加えて仕上げられています。出荷は原料の入荷が見込めないため、在庫がなくなりしだい終了を予定しているそうです。
免.堤酒造 TSUTSUMI78(78度/500ml)
球磨(くま)焼酎の伝統を受け継ぐ熊本の酒造メーカー、堤酒造からも、高濃度アルコール製品「TSUTSUMI78」が登場。
ツツミ78は酒蔵の名を冠したスピリッツで、飲用不可となっているので酒税も免除されています。
△.仙醸 アルカス77(77度/360ml)
長野の酒造メーカー、株式会社仙醸からも高濃度スピリッツが登場。
仙醸では厚労省の見解を受け、酒類製造で蓄積した技術と酒造免許を活用し、さらには従来の容器を転用するなど、短期間で消毒液の代替品となる「アルカス77」を完成させました。
地域貢献として新型コロナが収束するまで提供していくことにするそうです。
仙醸のアルカス、いや、戦場のアルカスといったところでしょうか。これは強力な武器になること間違いなしでしょう。
免.京屋酒造 J-Fight77(77度/900ml)
新型コロナの感染拡大に対して我々はなにをできるのか? 宮崎の酒造メーカーである京屋酒造は考え、そしてたどり着いたのが、酒造メーカーだからこそできることに全力を尽くすことでした。
「頑張ろう日本! JAPAN FIGHT!」
とのことで、京屋酒造からは度数77度の「J-Fight(ジェイファイト)77」が出荷開始。容量は900mlと多く、飲用不可となっているので酒税も免除されています。
△.玉泉堂酒造 Vホワイト72(72度/500ml)
酒造り用に度数95度の醸造アルコールを一定量保持していた岐阜の酒造メーカー、玉泉堂酒造。
消毒液の不足を受けて社会貢献になればとの思いから、保持していた高濃度のアルコールを仕込み水で調節した「Vホワイト72」を一般向けに出荷することを決定。日本酒の仕込みがちょうど一段落したタイミングだったので対応できたそうです。
アルコール度数は72度で、無味無臭のウォッカとして仕上げられています。
△.菊池酒造 アルコール70(70度/720ml)
酒造りの期間中は蔵の中でモーツァルトの音楽を流すことや、「奇跡のりんご」の生みの親、木村秋則氏指導の下で造られた「奇跡のお酒」シリーズなどでも知られる岡山の酒造メーカー、菊池酒造からも高濃度スピリッツが登場。
これこそが「奇跡の消毒液」なのでしょうか。菊池酒造からは度数70度の「アルコール70」、度数66度の「アルコール66」、2種類のスピリッツが出荷されています。
免.西酒造 SPIRITS70(70度/500ml)
「富乃宝山、吉兆宝山」などの宝山シリーズでも知られる鹿児島の焼酎メーカー、西酒造からは、アルコール度数70度の「SPIRITS70」が登場。
後述もしていますが、西酒造のスピリッツ70は「飲用不可」とすることで、特例的に酒税が免除されているため、少し安く購入することができます。
★.常楽・佐藤焼酎 アルコール70(70度/3000ml)
熊本の常楽酒造、宮崎の佐藤焼酎製造場からはダブルで出ました。
大容量3000mlの箱入りコンク付き、バッグ・イン・ボックスタイプです! ボトルよりもかさばらず、たくさん使うことができるので、これは使い勝手に期待が持てますね。
〇.木内酒造 NEW POT70(70度/300&3000ml)
数々の受賞歴を持ち、フクロウがトレードマークのクラフトビール「常陸野(ひたちの)ネストビール」を手掛けることでも知られる茨城の酒造メーカー、木内酒造合資会社からは「NEW POT(ニューポット)70」が出荷されています。
ニューポット70は、麦芽、小麦から造られたウイスキーの原酒で、アルコール度数は70度。3000mlの大容量タイプも出荷しているようです。
アルコール度数「60度」以上のスピリッツたち
消毒液の代用品として使用するお酒は原則としてアルコール度数が70~83%の範囲内とされていましたが、じつは後述もしているように、60~80%のアルコール製剤には殺菌効果があることが判明しています。
そのため、のちに厚労省は、殺菌効果が十分に期待できることを踏まえ、「70%以上のエタノールが入手困難な場合には、手指消毒用として60%台のエタノールを使用しても差し支えない」との通達を行いました。
そこで、ここからは最後の砦となる、アルコール度数が60度以上のスピリッツたちをご紹介します。
〇.明利酒類 メイリの65(65度/360ml)
消毒用アルコールの不足を受け、いち早く動いたメーカーは、茨城の明利酒類もその1つです。
明利酒類は、大量のアルコールを扱う酒造メーカーだからこそできることを考え、必要な人に届けたいとの思いから、より高アルコールで、極力不純物が少なく、一般的な消毒用アルコールと同程度のアルコール度数である「メイリの65」を完成させました。
日本の緊急事態を救うため、酒造メーカーの快進撃は続きます。
〇.八木酒造 花札スピリッツ66(66度/720ml)
奈良の酒造メーカーである八木酒造からは、不安を消し、安心感を与えてくれるお守りのようなアルコールを、という思いから「花札スピリッツ66」が販売されています。
八木酒造では、消毒用アルコールと同等のアルコール分を含んだスピリッツは調整用として使用しているため、花札スピリッツ66はほぼ無味無臭に近い状態。
このスピリッツこそが日本を救う「切札」になるかのでしょうか。販売は当初予定していた数か月から延長され、しばらくは継続されるようです。
〇.中国醸造 ハイアルコールスピリッツ65(65度/500ml)
広島の中国醸造からは、高濃度エタノール製品「High Alcohol Spirits 65%」が出荷されています。新型コロナウイルスによる消毒用エタノール不足で、多くの方からの要望を受け、製造を決定したそうです。
需要の多さから、いっときはお酒を充填するボトルまでもが不足していましたが、なんとか2種類のボトルを駆使して供給しているそうです。
★.中野BC 富士白65(65度/2700ml)
和歌山の酒造メーカー中野BCからは「今できる事を、今しかできない事を、私たちにできる事を」との思いから、ペットボトル入りの大容量高濃度スピリッツ「富士白65度」が販売されています。
その容量、なんと2700ml! サトウキビ由来の醸造アルコールを白樺炭で濾過、ウォッカとして仕上げられています。
富士白65は、通常の高濃度スピリッツと比べると4~5倍の容量があるので、気兼ねなく使用することができそう。これが1本あれば、しばらくは大丈夫そうですね!
〇.南アルプスW&B アルコール66(66度/750ml)
お酒以外にもミネラルウォーターの製造や開発を行う山梨のメーカー、南アルプスワインアンドビバレッジからも高濃度スピリッツが登場。その名も「アルコール66」。
公式からの発表はとくになかったような気がするので、あえてなにもいわないというスタイルなのかもしれません。これぞまさにサイレント・スピリッツ(寡黙な酒)といったところでしょうか。しかし、必要としている人のためという思いはおそらく一緒でしょう。
「飲用不可」の酒税免除品の展開もあるようです。
△.花春酒造 花春スピリッツ66(66度/360ml)
お酒は、一定のアルコール度数(67度)を超えると消防法上は危険物として扱われることになっているため、1日の製造量に上限があったり、場合によっては保管する工場の改修等が必要になります。
つまり、66度という度数は、感染拡大を一刻も早く食い止めるため、各酒造メーカーが可能な限りの高濃度スピリッツを、急ピッチで製造している結果にほかなりません。
そして、それは福島、会津若松のメーカーである花春酒造も同じでした。
花春酒造は、困っている人を救い、地域貢献したいという一心で開発を急ぎ、「花春スピリッツ アルコール66」を完成させ、現在は全国にこれを届けています。
△.笹の川酒造 SPIRIT66(66度/500ml)
消防法に関連して、発売直前になって仕様を変更することになってしまったのが、笹の川酒造の「SPIRIT66」です。
福島、郡山の酒造メーカーである笹の川酒造は、当初はアルコール度数が75度の高濃度アルコール製品「SPIRITS75」を出荷する予定だったのですが、消防法の観点から安全強化を重要視し、急遽仕様を変更。
アルコール度数を75度から66度に下げ、容器も480mlから500mlに変更することになりました。
「SPIRITS75」の意志を継いだ「SPIRIT66」。アルコール度数は下がろうとも、人を救いたいと思う気持ちは変わらないことでしょう。
△.金龍 ストロングウォッカ66(66度/720ml)
医療、経済、感染状況、その全てがひっ迫するなか、ついに山形では行政機関が酒造メーカーに協力を要請。そこで、手をあげたのが同県の酒造メーカー、株式会社金龍でした。
金龍は協力要請に応じ、2つの高濃度エタノール製品「EXTRA STRONG VODKA77(77度)」と「STRONG VODKA66(66度)」を急ぎ製品化。66度のほうを一般の方のために販売しています。
〇.篠崎 アルコール66 レッド&ブルー(66度/500ml)
コロナ禍による消毒用アルコール不足。この事態に、福岡の酒造メーカーである株式会社篠崎は、アルコール製造免許を持つ事業者として、なにかできることはないかと考えていました。
3年前の2017年、九州北部豪雨で被災した篠崎は途方に暮れていたそうです。しかし、日本中の温かい支援によってふったび立ち上がることができ、そして、いまこそがその時の恩返しを、被災から蔵元を救ってくれた、日本中の人々にする時なのだと思ったそうです。
篠崎からは、アルコール度数66度の高濃度スピリッツ「ALC66 レッド&ブルー」の2種類が出荷されています。
〇.宗政酒造 NONNOKO65(65度/300ml)
本格焼酎「のんのこ」シリーズを手掛けることでも知られる佐賀の酒造メーカー、宗政酒造からも高濃度スピリッツが登場しています。
その名も「NONNOKOスピリッツ65」。容量は300mlと、ほかと比べると少なめですが、消毒液が不足している方へのプレゼント用や、持ち運びなどにはちょうどいいサイズです。
△.黄桜 黄桜アルコール65(65度/300ml)
消毒用アルコール不足が叫ばれるなか、京都市でも行政機関が酒造メーカーに協力を依頼。そこで立ち上がったのが、日本酒の製造で広く知られる京都伏見の大手、黄桜株式会社でした。
黄桜は消毒液の代用品を近隣の医療機関へ寄贈するとともに、一般の方の手元にも届けたいとの思いから、アルコール度数65度の「黄桜ALC.65」の出荷を決定。
容量300mlのかわいらしいボッテリとしたボトルが特徴的で、のちに京都の名水を使用した、食品などにも使用できる「除菌アルコール65」というものも販売が開始されました。
〇.ヤエガキ酒造 ストロングウォッカ66(66度/720ml)
「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を」
日本最古の歴史書『古事記』では、スサノオノミコトという神が、八つの首と尾を持つ大蛇、ヤマタノオロチを酒で眠らせて討伐。大蛇に喰われてしまうはずだった娘を妻として迎え、その喜びを表現する和歌を詠みました。
そしてこの歌から、兵庫の酒造メーカーであるヤエガキ酒造の酒銘「八重垣」は生まれたのですが、このヤエガキ酒造からも高濃度スピリッツ「ストロングウォッカ66」が出荷されることが決定。
現代によみがえった大蛇、新型コロナというウイルスを、酒で討伐する時が来たということでしょう。
△.三光正宗 三光スピリッツ65(65度/720ml)
明治時代、アメリカに渡り苺農園の経営に成功した一人の男が、築いたその財で酒蔵を立ち上げたという異色の歴史を持つ酒造メーカー、岡山の三光正宗。
三光正宗では、消毒用アルコールの不足を受け、なんとかして製造し、とにかく早く困っている人のもとに届けたいとの思いから「三光スピリッツ65」を緊急で完成させました。
正体不明のウイルスを撲滅すべく、トレードマークの苺が光ります。
△.大山甚七商店 ハイスピリッツ65(65度/500ml)
鹿児島の酒造メーカー大山甚七商店では、当初はアルコール度数77度、容量300mlの「ハイスピリッツ77」の開発を進めていたようですが、こちらもおそらく消防法の関係で度数・容量を変更することになり、最終的には、容量500mlの「ハイスピリッツ65」が完成。
当初は鹿児島のみの販売が予定されていましたが、現在は販売エリアも拡大できるようになったようです。薬品のようなボトルが特徴的。
〇.まさひろ酒造 まさひろウォッカ66(66度/700ml)
おもに泡盛ともろみ酢の製造・販売を手掛ける沖縄の酒造メーカー、まさひろ酒造からはアルコール度数66度の「まさひろウォッカ66」が出荷されています。
本社工場で行われている、無料で泡盛やもろみ酢の試飲ができ、泡盛の歴史や文化も学ぶことができる工場見学「まさひろギャラリー」も人気の蔵元です。
アルコール度数が低くても消毒効果はある!?
日本では消毒用エタノールのアルコール濃度は76.9~81.4%と定められているため、それ以下になると、消毒効果が弱ってしまうと思われるかもしれません。
しかし、「WHO手指衛生ガイドライン」では、60~80%のアルコール製剤には殺菌効果があるとし、手指衛生に関しては、75%のイソプロパノール(アルコールの一種)または80%のエタノール製剤を推奨。
アメリカ感染症対策の政府機関「米国疾病管理予防センター(CDC)」の手指衛生ガイドラインでは、アルコールの抗菌作用は60%~95%のアルコールを含む溶液が最も有効としています。
また、一部の専門家の意見では、
70%エタノールがもっとも強い殺菌・消毒力をもつと言われてきましたが, 現在では60~95%の濃度範囲であればその殺菌・消毒力にはほとんど差がないと言われています。
消毒用アルコールの濃度について(リンク切れ)
という、CDCの意見に基づき、そこまで高濃度のアルコールでなくても殺菌効果はあるというものや、
エタノールの最適除菌濃度は70~80重量%で、80重量%以上になると逆に除菌力が低下します。食洗協-エタノールの除菌効果
といった、アルコール濃度が高すぎても除菌の効果は見込めないという意見もあり、なければないで、無闇やたらと、高濃度の消毒液にこだわる必要はじつはないのかもしれません。
よって、専門家の意見や各機関の推奨を含めてこれらを総合すると、ひとまずは60~80度のアルコール濃度があれば十分な殺菌効果は発揮されると思われるので、たとえば、これも高濃度スピリッツである、アルコール度数75.5度の「ロンリコ151」や、同じく75.5度の「バカルディ151」などでも殺菌の効果はあるのかもしれません。
しかしながら、前述のとおりこれらはラムなのでやはりベタつきますし、また原料は異なりますが、独特の甘みと60~70度と高いアルコール度数を持つアブサン(ハーブリキュール)などもそれは一緒です。
やはり消毒液の代用として使用するのであれば、無味無臭に近いスピリッツやウォッカがいちばんよさそうです。
お酒を消毒液として使用する際の使い方と注意点
最後に、お酒(スピリッツ)を消毒液として使用する際の使い方と、注意点についてお話ししたいと思います。
スピリッツを消毒液として使用する場合、スプレーボトルに移し替えて使用することになると思うのですが、アルコールは引火しやすく、さらに蒸発しやすいという特徴があり、大量に蒸発すると空気より重い可燃性の蒸気が、低所にたまる危険性があります。
そのため、コンロやタバコなど、火の近くで使用すると危ないので、そういったところでは使用しないようにし、詰め替え作業などは、できるだけキッチンなどから離れたところ、換気のいい所で行う必要があります。
また、アルコールは水分を奪うという性質もあるため、手指への使用は肌荒れの原因となることもあります。夜にはしっかりと、手のケアをしてあげるといいでしょう。
なお、詰め替えに使用するスプレーボトルは、素材によってはアルコールで変質してしまう可能性があります。使用するボトルは、アルコール耐性がある、アルコール対応のボトルを使用すると安心だと思いますよ。
今回のまとめ
・アルコール度数が60度以上あれば十分な効果が見込める
・代用品としては無味無臭に近いスピリッツ、またはウォッカが最適
かつて錬金術師によって偶然生み出されたその液体は、燃えるように熱く、人の魂、精神、肉体をも目覚めさせる不老長寿の霊薬として信じられてきました。それゆえ、蒸留酒は「スピリッツ(Spirits)」と名づけられたとも考えられています。
本来は消毒の用途に使うものではないですが、ウイルスを駆除し、人類を救うために使用されるのであれば、スピリッツを生み出した錬金術師たちも怒らないでしょう。
人類に仇なすウイルスを撃退し、不老長寿を目指してください。
エタノールや消毒液についての詳細はこちら
→【消毒液と酒の違い】エタノール、メタノール、アルコールとな何なのか
アルコールを希釈する計算式はカクテルの度数計算方法を参照
→ カクテルのアルコール度数の計算方法&お酒の純アルコール量の計算式を解説
アルコールで「体内」を消毒するというのは酒飲みの戯言か
→ お酒に含まれるアルコールで喉や口内を殺菌、消毒することは可能なのか
消毒液の多用による手荒れ対策はこちら
→【予防&対策】手荒れを防げ!手を乾燥から守るバーテンダーの肌ケア術
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