【熔ける】カジノで106億すった大王製紙元社長もギャンブル依存症だった

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106億8000万円という巨額を溶かした男の「バクチをやる人間はバクチに向いていない」という言葉は刺さりました。

身から出た錆。そんな言葉では到底、済まされぬ私が犯した過ち。なぜかくも馬鹿げた状況を招いてしまったのか。それを率直に話すことが、世間をお騒がせした私にできるせめてもの償いと思い、本書を記した。(34ページより)

日本で起きたカジノがらみの事件で最も有名なものといえば、「エリエール」で知られる大王製紙の創業家3代目であり元社長(会長)の井川意高氏が起こした、106億8000万円にものぼる子会社からの巨額借入事件でしょう。

2011年、氏は会社法違反(特別背任)の容疑で東京地検特捜部に逮捕され、のちに懲役4年の実刑が確定することとなってしまいましたが、ビジネスマンとして成功を収めていた氏の身にいったいなにが起き、このようなことになってしまったのかというのは、すべて著書である『熔ける』に記されていました。

なんと井川氏も、ギャンブル依存症だったのです。そして本書には、巨額を溶かして破滅した人間こそが知る、いや、巨額を動かせる人間しか知りえない「ギャンブル依存者の心境」とでもいうような貴重な情報も記されていたので、今回はこちらの本をご紹介していきたいと思います。

目次

大王製紙前会長 井川意高の懺悔録

2011年9月、社内メールによる告発によって、連結子会社7社から借り入れ続けてきた106億8000万円の資金調達が明るみになると、約3か月前に就任したばかりの会長を辞任。その2か月後には、東京地検特捜部から逮捕状が執行され、最高裁判所に懲役4年(執行猶予なし)の実刑判決を言い渡される。

本書は、大王製紙元社長(会長)の井川意高氏が、刑務所へ入る前に自身の半生を記した自伝的な作品で、文庫版には特別書き下ろしとして、刑務所内での生活や、出所後のことが書かれています。

構成は全8章(+α)+文庫特別書き下ろしで、約半分は氏がカジノに突入するまでの半生となっていますが、著者はどのような人物で、なぜカジノで破滅することになってしまったのか、ということがよくわかる内容となっています。

ここからは、本書の内容から読み取れる事件の経緯と、氏のギャンブルにのまれていった心境に焦点をあて、少しずつ内容をご紹介していきたいと思います。

井川意高氏という人物・来歴・カジノ遍歴

大王製紙創業家の2代目の長男として生まれた井川意高氏は、愛媛県の伊予三島市(いよみしまし:現在の四国中央市)で育つも、田舎の陰湿さのようなものから、少年時代は都会にあこがれを抱いていたそうです。

ところが、運命のいたずらか、そんななかで起きた第1次オイルショックによって対応を迫られた大王製紙は、新たなマーケットの開拓のために東京へ進出することが決まり、氏は故郷からの脱出に成功。

もともと勉強が得意だったことや、ゴルフクラブでぶん殴ってくるようなスパルタ教育の父のおかげもあって、中高一貫の東京教育大学付属駒場中学校(のちの筑波大付属駒場中学、通称・筑駒)に進学します。

「もう時効だろうから」ということで語られていますが、中学のころから友人と麻雀をするようになり(麻雀は小学生のころから家族とやっていた)、中学3年生にもなると友人といっしょに雀荘へ。高校に進学するとパチンコにも行くなど、このころは勉強の息抜きとしてギャンブルを楽しんでいたそうです。

その後、氏は東京大学法学部に現役で合格。東大への進学は、ゆくゆくは大王製紙という大きな会社を継ぐ人間としての布石であり、学歴面でまわりから陰口を叩かれないようにするためというのが大きかったとしています。

なお、大学生時代がいちばん麻雀に熱中していた時期だったそうです。

大王製紙入社~社長就任まで

東京大学法学部を卒業後は大王製紙に入社。地元愛媛の工場に赴任することになり、ここで設備や現場についての知識を吸収していきます。

27歳のころには、当時は別会社だった名古屋パルプに社長(といっても工場長のような立場だったとのこと)として出向。30歳前後で大王製紙本社の専務取締役。その3年後には副社長。そして、42歳の若さで大王製紙の社長として君臨するなど、創業家だからという理由だけではなく、着実にビジネスマンとしての頭角を現していき、出世街道を突き進んでいきました。

しかし、出世と同時に、破滅へのカウントダウンは始まっていたのです。

カジノ遍歴:オーストラリアからラスベガス

氏が初めてカジノに行ったのは、専務~副社長のあいだのころで、オーストラリア東海岸のリゾート地「ゴールドコースト」に、数組の家族旅行で出かけたのがきっかけだったそうです。

初陣となったゴールドコーストでは、帯封がついたままの100万円を軍資金に、ブラックジャックとバカラで大勝。その流れでラスベガスにも行き、ポケットに突っ込んだ70万円をウン十倍にまで増やしたこともあったそう。

まさにビギナーズラックが生み出す鮮烈なデビューを果たしたわけですが、それでも、このときはまだ、カジノにのめり込んでいたわけではありませんでした。氏は勤め人だったのでそうそうカジノに遊びに行けるわけでもなく、社会人となってからも続けていた麻雀をしていれば充分と感じていたからです。

しかし、麻雀は基本的に4人のメンツが集まらなければ卓が成立せず、金曜の夜から土日ぶっとおしで麻雀をやる人間はそうはいないので、麻雀で息抜きができているなかでも「相手のことを気にせず心ゆくまでギャンブルを楽しみたい」という気持ちはあったといいます。

そこで、氏にとって転機となったのが、のちに氏をマカオのVIPルームへといざなうことになる「ジャンケット業者」との出会いでした。

ジャンケットとの出会いからマカオへ

ジャンケットとは、簡単にいえば、VIPのお客さんのホテル手配から資金の調達まで、なにからなにまでしてくれるカジノへのアテンド業者のようなもので、おもにマカオで取り入れられているサービスです。

氏は、のちにジャンケットの資格を取得する人物と飲み屋で知り合い、その人物の案内で、オーストラリアやラスベガスよりもアクセスのいいマカオに行くようになりました。

マカオのカジノに行き始めたのは社長就任の4年ほど前(副社長時代)からで、当初はほどほどの軍資金で年に数回遊びに行く程度でしたが、先ほどの人物がジャンケットの資格を取得してからは一転。

ついに選ばれた者だけが入ることを許されるあの部屋、「VIPルーム」へと入っていくようになったのです。

マカオのVIPルームで借金をするように

大王製紙の社長に就任してから1~2年ほどすると、氏のカジノへの熱の入れ方は急速にエスカレート。金銭感覚が麻痺していき、4桁の金額を張ることもめずらしいことではなくなっていきました。

ジャンケットのエージェント(案内役)がVIPルームにアテンドしてくれるようになってからは、カジノの運営会社に借金をするようになり、それを埋め合わせるため、ついに大王製紙の子会社からカネを引っ張るようになっていきます。

金曜日の夕方に仕事を終えると、その足で羽田空港へ向かう。金曜日の深夜にはマカオ入りし、ほとんど眠らずに勝負をし続ける。『熔ける』p.182

氏がのめり込んでいたのは丁半ばくちの「バカラ」で、カジノに到着してからは、ほとんど眠らずに勝負をしていたといいます。

なお、マカオでは300万円を7億円に増やしたこともあったそうですが、当然ながら勝つことよりも負けることのほうが多く、事件発覚前の2011年ごろになると、バカラの借金は天文学的な数字へ。

そして氏は、巨額の負けを取り返すため、シンガポールのカジノに主戦場を移したのです。

魔窟のシンガポール・マリーナベイサンズ

当時、日本からマカオへの直行便はなく、1ゲームの上限もそこそこだったそうですが、ある人から、「シンガポールのマリーナベイサンズ(カジノ)には羽田からの直行便があり、MAXベットもマカオの2倍ほどいける」という話を聞いた氏は、新たな戦場であるマリーナベイサンズへ。

「今までの勝ちはいったん白紙に戻すのだ。目の前にある20億円を種銭とし、あのときのようにさらに10億円20億円と勝ちを膨らませてやる。そうすれば今までの借金がすべてチャラになるだけでなく、赤字を黒字に転換して悠々と日本へ帰れる」『熔ける』p.17

シンガポールのマリーナベイサンズでも、マカオを超える、とんでもないミラクルを起こしたこともあったそうですが、大王製紙の会長就任から数か月後のある日、突如カジノ通いは、打ち止めとなってしまうのです。

井川氏はなぜ借金を重ねたのか

井川意高氏は、なぜ会社のお金をここまで借りてしまったのでしょうか。それはもちろん、カジノでの負けを取り返すためという理由もあったようですが、どうもそれ以上の理由があったようです。

本書内では、「なぜ子会社からカネを引っ張ることへのハードルが、私の中で低かったのか」という自身への問いかけに対し、以下のように述べられています。

「過半の株式をもっている会社から、一時的にカネを融通したって問題はなかろう」
こんなことを口にすれば、多くの読者から批判の声を受けることは承知しているが、そんな軽い気持ちがあったことは事実だ。『熔ける』p.207

ようは、返そうと思えばいつでも返せるお金という意識があったからのようです。

現に、この106億8000万円という借金は、株式を売却するなどして、最終的にはすべて返済されているので、「会社のお金だけれど、返せば使っても問題ない」といった認識が多少なりともあったことによって、借金がここまでふくらんでしまったものと思われます。

もはやスケールが違いますが、消費者金融に返済したお金を、どこか自分のお金のように錯覚してしまい、借金は残っているのにまた借りてしまう、という行為に近いものがあるように私には感じられました。

巨額をギャンブルに使い込んだ心境

カジノへ行くと、コーヒーしか口にしない状態で、36時間ぶっ続けで勝負するのは当たり前。

東京地検特捜部に逮捕される直前、井川意高氏は、ある精神科で「抑うつ状態・アルコール依存症・ギャンブル依存症」と診断されたそうで、パチンコやパチスロにハマって破滅する主婦の気持ちがよくわかるとしています。

総額100億円を超える金額をつぎこんだ私の場合、パチンコやパチスロとは比較にならないと笑う読者もいるだろう。しかし……たまたま億単位のカネを動かせる立場だったがために、私のギャンブル依存症は数百万円どころかケタをいくつも飛び越えてしまっただけだ。『熔ける』p.253-254

ようは引き出せるお金がたまたま億単位だったから、億単位のお金を使ってしまったということでしょう。

また、ギャンブル依存症に関連しては、このようなことも。

ギャンブラーにとっては、賭ける金額が大きいか小さいかは関係ない。「井川さんにとって……総額で100億円以上も負けたときの気分はどうですか」とよく訊かれるのだが、答えは「あなたがパチンコをやるときと一緒ですよ」としか言いようがない。『熔ける』p.289-290

氏は、「自分は破滅するかもしれない」という瀬戸際でやっているからこそ、ギャンブルにはたまらない快感があるとしています。(290ページより)

氏にとっての破滅が億単位であっただけの話で、一般的なギャンブラーが1回のパチンコ・スロットに、5万円、10万円と使ったときと、本質的にはなにも変わりがないということなのかもしれません。

病的なギャンブラーがアツくなれるのは、結局は使った「金額」ではなく、使った金額が「破滅が現実的になる値」だったのか、ということなのでしょう。

感想:やはりカジノはヤバいのか?

元ギャンブル(パチンコ)依存者の私は、現在はすべてのギャンブルとは疎遠になっていますが、時が来たらカジノへ遊びに行きたいともくろんでいます。が、本書を読んでから、やはりカジノには行かないほうがいいような気がしてきました。

1円パチンコや5円スロットなどが、まったくもっておもしろいと感じることがなく、時間の無駄だとさえ感じるのは、つまるところ、たいしたお金がかかっていないからで、勝っても負けてもなにも感じないところにあると私は思っています。

それはカジノも一緒で、ラピッドゲームと呼ばれる電子ゲーム(ゲームセンターにあるような機械の台)に、1ゲーム100円とか、500円とかを賭けていても、なにもおもしろくないのです。

カジノでおもしろいのは、チップを使用するテーブルで、大きな金額を賭けた、勝つか負けるかのスリル。そのスリルを感じるためには、どうでもいい金額ではなく、少なくとも生活がおびやかされるような金額を賭けなくてはなりません。

たとえば月収が20万円であれば、5~10万円で充分アツくなれますが、月収が200万円ともなれば、おそらく50万~100万円ほど賭けなければアツくはなれないでしょう。

ようするに、カジノで楽しさを感じようと思ったら、そのときの稼ぎや貯金といったものが、もしかするとその日のうちに吹き飛んでしまうかもしれない額を賭けなければならないのです。

そうなってしまうと、カジノには終わりがありません。「ちょっとだけ楽しむ」なんてことは不可能となってしまいます。なぜなら、「楽しむ」ためには、そこに「破滅」が見えなければならないからです。

カジノ。いったいどうしたものでしょうか。まだ時間はあるので、この件については引き続き考えたいと思います。

今回のまとめ

・返そうと思えば返せるお金は簡単に借りてしまう
・金の単位は関係ない。重要なのはその人にとっての金の価値
・カジノには終わりがない

日本はギャンブル大国で、依存者の割合が諸外国と比べて高いとよくいわれます。海外では、この手の事件(カジノで破滅)はよくあることだとも聞きます。正直私にとっては、この事件は他人ごとのようには思えません。

今後私が、ここまでの大金を動かせるような富豪になることはおそらくないでしょうが、好きなときに海外に行けるようになる程度は稼げるようになったとき、カジノにハマってしまえば、また借金をこさえてしまい、破滅に向かって一直線になってしまってもおかしくはないような気がするからです。

いくらお金を稼いでも足りないのがカジノ。有り金が全部吹き飛ぶような、生活を賭けた勝負をしなければアツくなれないのがギャンブル。

井川意高氏は、「バクチをやる人間は、結局のところ皆バクチに向いていない」とも述べていました。(249ページより)

おそらく私は、向いていないほうの人間だと思います。カジノで有り金をすべて吹き飛ばし、死にそうな顔をしている自分が容易に想像できますから。

カジノに興味がある方や、著者の巨額の溶かしっぷりが気になる方は、ぜひ一度本書を手に取ってみてください。特別書き下ろしがある文庫版がおすすめです。

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