バーで一杯だけはお店に対して失礼にあたるのか?を現場経験から徹底解説

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皆さんはこんな言葉を聞いたことはないでしょうか?「バーに来て一杯だけで帰るのはお店に対して失礼だ!」

バーで一杯だけ飲んで帰るのはお店に対して失礼。

じつは私も、長年飲食業に従事してきたなかで、諸先輩方からそういったこと(何杯か飲んでから帰るように)を教わってきたり、とくに7年ほど勤務していたバーの経営者からは、かなり口酸っぱくいわれてきたりもしたのですが、はたしてそれは、ほんとうにそうなのでしょうか?

バーには守らなければならないマナーがあり、マナーは知っていてあたりまえといった風潮がすくなからずあることもたしかです。しかし、この「一杯だけ問題」に関しては正直微妙なところで、これをうのみにしてしまうと、バーに行きたくても行けない方が出てきてしまうようにも思います。

そこで、この「バーで一杯だけはマナー違反なのか」という問題について、今回は一杯だけの利用をしたいという方のためにも、私が現場で見聞きしてきた経験から、徹底的に解説していきたいと思います。

いまこそ、一杯だけ問題に終止符を打つ時は来たのです。

目次

なぜ一杯だけが失礼とされるのか

まず、バーに来て一杯だけで帰ることが失礼とされる理由ですが、これは突き詰めると、バーの経営事情の話になってきます。そのため、じつをいうとこの問題は、お客さん側がそこまで気にするようなことでもありません。

今回は徹底解説するとしているのでこのまま話を進めていきますが、結論からさきにいってしまうと、一杯だけでもバーを利用することは問題ないということができると思います。

では、とくに問題ではない「一杯だけの利用」が、なぜここまで問題になってしまうことがあるのでしょうか?

これの理由は、バーの「経営事情・客単価・付き合い」という、3つの項目で説明することができるように私は思います。

1. 経営事情

バーは利益を上げなければ運営していくことができない飲食店です。

お店を運営していくためには、売上から家賃・光熱費・人件費・仕入れなどの経費を引いて、最低でも黒字にしていかなければなりません。赤字がつづけば資金切れを起こしてしまい、お店は閉店に追い込まれてしまうでしょう。

そこで、バーは利益を上げるため、まずは必要経費などを加味したうえで売上の「予測」を立て、メニュー構成やショット(一杯)の値段を設定していくわけですが、ふつうの街のバーでは、一人のお客さんが飲む杯数を一杯と予測して値段設定をしているところは基本的にないと思います。

バーによく行かれる方であれば、街のバーはだいたいチャージが500円、ショットは最低価格で700円前後が多いと感じるのではないでしょうか?

しかしこれは、お店に来てくれたお客さんが何杯か飲んでくれることを前提にした料金設定であって、基本的に一杯だけを前提とした価格ではありません。チャージやショットなどの料金に、さきほどのような経費もふくまれているからです。

もしお客さんが飲む杯数を一杯だけと予測して料金設定をするのであれば、それぞれの値段を引き上げるか、回転数を重視するでもしないかぎり、お店を運営していくのはむずかしくなっていくように私は感じます。

そして、こういった経営的な事情というのは、飲食関係者もそうですし、気になる人には気になってしまうことなので、「一杯だけで帰ってしまうと、バーも苦しいだろうな」と考えてしまうわけです。

つまり、一杯だけが失礼とされる第1の理由については、こういった飲食店の経営事情を知る同業者などが、一杯だけではお店の経営が成り立たないことを知っているから、ということになるでしょう。

2. 客単価の問題

飲食店の売上というのは、単純に考えると「客数(その日の来客数)×客単価(お客さん1人あたりの使用金額)」であり、前者の客数も飲食店の運営には重要な要素となりますが、今回の「一杯だけ問題」では、後者の客単価が大きくかかわってきます。

たとえば、1日の目標金額が3万円のバーがあったとしましょう。

そのお店に、1日をとおしてお客さんが1人しか来てくれなければ、ほぼその日の目標は達成できないと思われますが、その1人のお客さんが使ってくれた金額が3万円以上であれば、なんとそれだけで目標を達成することができてしまいます。

一方、1日に20人のお客さんが来てくれれば、3万円の目標達成はほぼ確実だと思われますが、全員が一杯だけで帰られたとして、客単価が1500円未満になってしまえば、目標を達成することはできなくなってしまいます。

ようするに、この客単価というものは高ければ高いに越したことはなく、これが低いと来客数がよくても、お店の運営をつづけていくことができなくなってしまうこともあるものなのです。そしてお客さんが一杯だけで帰られた場合は、この客単価が落ちることになると。

とくに経営者からすると、単価が低いというのは頭を悩ませる要因のひとつにもなりえますし、さらにはこの客単価が、バーテンダー(従業員)の力量や、その日の営業内容をはかるひとつのバロメーターにもなるため、単純に数字だけを見れば、単価が低いのはいいことではないとされてしまうことが多いのです。

よって第2の理由は、第1の理由と似たようなもので、おもに同じような境遇・事情を知る人や、飲食業界の人が、単価の問題に気をつかうからでしょう。

3. 店同士の付き合い

バーにはバー同士の横のつながりや、周辺の飲食店とのつながり、ようはお店同士のつきあいがあったりもします。周辺の飲食店の方が仕事終わりに飲みに来てくれた代わりに、バーテンダーは営業前や休日にそのお店に行き、ご飯を食べたりお酒を飲んだりするわけです。

いつも来てくれてありがとうございます。このあいだはたくさんお金を使ってもらって、なんだかすいません。いえいえ、こちらもたまにしか来れませんから。

同じ地域の飲食店というと、ライバル関係にあるようにも思われるかもしれませんが、すべてがそういうわけでもなく、「いっしょにがんばりましょう」という、よき仲間としての関係性を築いていけることがあるのです。

つきあいがあるということは、お金を使ってもらっているということ。そのため、相手のお店に行ったときはお酒をごちそうしたり、たまにしか来れないぶん、来たからにはできるだけ多くお金を使おう、となったりもします。

さて、そんなときに、先輩や上司がいうわけです。「一杯だけで帰ると失礼だから、何杯か飲んでから帰ろうか」と。

飲食業に従事している方であれば、いちどは先輩や上司から、そういった言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか?

そして、こういった相手のお店への気遣いが、飲食経験者のあいだでは脈々と受け継がれている。それも「一杯だけは失礼」という考えがあることに関係しているのではないかと私は思います。

したがって第3の理由としては、飲食店同士のつきあいによるもので、これも結局のところ、同業者同士の気遣いから始まっているものといえるでしょう。

一杯だけで帰るのは「悪」ではない

バーで一杯だけが失礼というのは、飲食関係者や経営事情などを知る人が、お店に対する気遣いとしていっているものであり、それがいくつかの理由から世間にも広まったことで、よく耳にするフレーズと化したのではないかと私は思います。

そのため、この「一杯だけ問題」は、ただバーに行きたいというお客さんが、そこまで気にするようなことではないと思いますし、一杯だけで帰るのはけっしてわるいことではないと思います。

なお、これは余談となりますが、べつにいわなくてもいい内部事情をお話ししてまでこの問題を取り上げたのには、私が過去にした経験にも関係があります。いったんここでは小休止ということで、ちょっとした昔話をしましょう。

2杯目を売れと言われた駆け出し時代

これは私が、まだ駆け出しのバーテンダーだったころの話です。

当時私が勤めていたお店には、「ジントニックを一杯だけ」というご夫婦のお客さんが、ひんぱんではないものの、定期的に来てくれていました。おふたりの雰囲気から察するに、「一杯だけお願い」という旦那さんのお願いに、「じゃあ一杯だけね」と奥さんがつきあっているような感じです。

私も駆け出しとはいえ、お客さんが2杯目を飲みたいのか、飲みたくないのかくらいはわかりましたから、とくに2杯目をすすめることもありません。

注文された一杯ずつのジントニックを飲み干すまでのあいだ、ご夫婦はゆったりとした時間の流れをバーで感じる。それが、とくに旦那さんにとっては、きっと楽しい時間であったのでしょう。

一杯だけでも飲みに来てくれるお客さんがいる。バーテンダーからすれば、お店に来てくれるだけでありがたいですし、そういった定期的に来てくれるお客さんは、大切にしたいと思うものです。

ところが、そんな時間は長くはつづきませんでした。

ある日、ひょんなことから、この「かならず一杯だけで帰る」お客さんの存在を知った経営者から、私はこのようにいわれてしまったのです。

経営者
経営者

毎回一杯だけで帰られてるとさ、店潰れちゃうんだよね

2人で2000円ちょっとじゃさぁ。自分だったらなんとしてでも2杯目を売るよ、じゃないとやっていけないって。君はいいよね、べつに売らなくてもお給料がもらえるんだから……。

まあ当時はさんざんないわれようだったものですが、ようするに、経営者は2杯目を売れと私に命じたのです。

「新しいジンが入ったので、よかったら2杯目いかがですか?」

それから私は、不本意ではあったものの、このご夫婦に2杯目をすすめるようになりました。

たしかに、それで追加の注文をいただくこともありました。が、一杯だけと決めている理由には人それぞれの事情もあると思いますし、場合によっては、退店をせかされるように感じることもあるでしょう。

結局、そのようなやりとりが何度かあったあと、そのご夫婦のお客さんは、お店には来られなくなってしまったのです。

結局はバランスの問題

これはもう言い訳にしかなりませんが、当時の私は駆け出しだったので実力がなく、そのせいで常連さんの居場所を奪ってしまうという、悲劇的なできごとが起きてしまいました。

そこで、このような過去の失敗をお話しすることでなにがいいたいのかというと、この「一杯だけ問題」というのは、結局のところ、バーテンダーの実力しだいでどうとでもなることでもあるということです。

たとえば、一杯だけで帰られるお客さんが何人かいたとしても、そのぶんを飲んでくれるお客さんがほかにいれば、売上や単価といった問題は解決することができます。

お客さんにもうすこし飲みたい、もうすこし話していたい、もうすこしお店にいたいと思ってもらうには、バーテンダーの酒に対する技術や知識、会話を引き出す技量が大きくかかわってくるというもの。

そういったもの、つまり実力を駆使することができれば、一杯だけ飲みたいというお客さんの居場所を、ほかで守ることだってできるわけです。

ようはバランスの話で、飲む方もいれば、飲まない方もいる。この問題は、ただそれだけの話でもあるのかもしれません。

一杯だけで利用する際の注意点

バーで一杯だけは失礼というのは、あくまでも気遣いであって人に押しつけるものではなく、バーテンダーの実力しだいではなんとかなることでもあるなど、やはりお客さんがそこまで気にすることではないように思います。

しかしながら、ひと昔前では一杯で帰る人は少数派だったとも聞き、直接はいわないものの、一杯で帰るお客さんをよく思わない人もいることはいるので、最後に、バーを一杯だけで利用するさいに注意しておきたいことをお話ししたいと思います。

1. 滞在時間に気をつける(長居しない)

バーにおいては基本的に「一杯にかかる時間=滞在時間」と考えておけばまちがいはありません。

一杯にかかる時間とは、一杯をおいしく飲める時間であって、たとえばショートカクテルであれば15~20分、ロングカクテルであれば25~30分までがベスト、といったような目安もあることはあります。

ただ、それをいってしまうと、カクテルは冷えているうちに、温かいうちにさっさと飲んで帰らないといけないことになってしまいますし、ウイスキーのストレートなどでは、時間はほぼ関係なくなってきてしまうでしょう。

では、結局一杯ではどれくらいお店にいてもだいじょうぶなのでしょうか? これは、あくまでも私の感覚ですが、45分~1時間くらいであればまったく問題はないということができると思います。

実際、ショートカクテルは量もすくないので、必然的に飲みきるまでの時間も短くなりますが、飲み終わったらすぐに帰ってほしいとはバーテンダーは思いませんし、むしろ20分ほどの短時間で帰られてしまうと、なにか気に入らないことがあったのかなと、申し訳ない気分にもなるものです。

いちばんよくないのは、飲み終わったあともだらだらと長時間にわたって居座りつづけることなので、1杯の限度は基本的に1時間までと考えておくと、まちがいはないと思いますよ。

ちなみに、飲むのが早い人は一杯に30分ほど、遅めの方は一杯に1時間ほどと、一杯を飲み終えるのにかかる時間は、平均するとやはり45分くらいに落ち着くのではないかと思います。

2. カフェ感覚で利用しない

バーというところはすこし特殊な場所でもあるので、カフェやファミレスのように、とりあえず一杯だけたのんでおけば、あとは比較的自由な時間を過ごせる、というわけではありません。

たとえば、以下のような使い方はよしとはされないことが多いので、注意が必要となってきます。

  • パソコンを持ち込んで作業を始める
  • 漫画、雑誌、新聞などを持ち込んで読み始める
  • スマホやタブレットでゲームを始める

バーという場所は酒、会話、音楽、雰囲気といったものを楽しむ場所なので、こういったことは、ほかのお客さんの迷惑になってしまうことがあるからです。

もしなにかやりたいことがあって、それをやってもいいのかわからない場合は、聞けば教えてくれるはずなので、勝手に始めてしまわずに、まずはバーテンダーに聞いてみるといいでしょう。

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3. 最後に一言添える

これは訪れたバーにまた行きたいと思ったらでいいと思うのですが、会計時や帰りぎわに、「一杯だけですみません」などとひと言添えておくと、その後の関係が円滑になったりもします。

お客さんが一杯だけで、さらに無言で帰ってしまうと、バーテンダーはなにか気に入らないことがあって帰ってしまったのかなとも考えます。しかし、べつにそういうわけではないのであれば、たったひと言添えるだけで、次回からはお店に行きやすくもなる(受け入れられやすくもなる)というものでしょう。

また、さきのとおりで、何杯も飲んでくれるお客さんがいるからこそ店をやっていける、逆にいうと、一杯のお客さんだけではやっていけないという考え方もたしかにあるため、一杯だけのお客さんをよく思わない店主もいるとは思うのですが、これもひと言添えておけば、案外なんとかなったりもするものです。

ごちそうさまでした、一杯だけですみません、といった、たったひと言の挨拶だけで、人の印象というものはがらりと変わります。それほどに、挨拶という言葉が持つ力は大きいと私は思います。

こんばんは、おやすみなさい、なんでもいいでしょう。挨拶ができる大人は、格好いいと思いますよ。

今回のまとめ

・一杯だけが失礼というのはおもに飲食関係者同士の話
・結局はバランスの問題なので、そこまで気にする必要はない
・マナーを守って挨拶をしておけば問題なし

酒離れや、不景気、全面禁煙化など、バーを取り巻く環境は年々きびしくなってきているように思います。

たしかに、2杯、3杯と飲んでもらえれば、それはお店としてはありがたいことでしょう。しかし、大多数のバーは、そんななかでもお客さんが来てくれる、それだけでもありがたいと感じていることと思います。

一杯だけではわるいかな、それだとすこし行きづらいな、と感じていた方は、ためしにバーに行ってみてはいかがでしょうか? もしそれでいやな顔をされたのであれば、言い方はあれですが、そこは時代錯誤のお店かもしれないので、もう行かなければいいだけのことです。

また、いつも一杯だけで申し訳ないと感じたのであれば、ときどきでいいので、バーテンダーに一杯ごちそうしてあげるのもありだと思います。そうすれば、実質2杯飲んだことになるので上限時間も撤廃されますし、無理して自分で2杯飲むよりも、印象がよくなるかもしれませんよ。

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コメント一覧 (2件)

  • 一杯だけで帰られては店が潰れるは経営者の大きな間違い。絶えず満席なら一杯で一時間以上居るお客様にはススメてもいいけど、そうじゃないなら店側のマナー違反です。
    一杯でも飲んでくれる客を獲得する努力をしないと。一杯で一時間以上居る客は絶えず満席だと居心地は悪いでしょうから常連にはならないでしょ。
    バーを経営していれば普通にフラって入ってきて一杯だけ飲んですぐに帰るお客様は度々経験するはず。
    私はラッキーなお客様だと思っています。
    『ニコラシカ一杯だけ』と言って5、6分で帰られた時には色々考えさせられますよ。

    • 該当の台詞は、当時発せられた背景にさまざまな事情があったようで、じつをいうと私もそれが100%本意なのかどうか、いまとなっては判断できないのですが、やはりいろんな経営者の方がいらっしゃるのでそういった意見もあり、それがルールとなっているお店では、それが正しいことになるのかもしれないとは考えさせられました。

      もっとも、私はこの経験を反面教師と捉えているので、そうならないように努力したいと思っています。コメントをありがとうございました。

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