うつ病になると心理的な状態が変化することで行動にも異常が現れ、さらには身体にも症状が現れるようになります。
うつ病は人それぞれによって症状が異なるため、うつ病になるととこうなる、どうなる、というのは、ひと言では言い表せないむずかしい病気です。
しかし、「精神エネルギーが低下している状態」がしばらく続いていて、それによって心理的な症状や身体的な症状が起きているのであれば、それはただ気分が優れないのではなく、うつ病という精神的な病にかかってしまっている可能性があります。
うつ病を克服するうえでまずしなければならないことは、病気を「自覚」することだと私は思っています。今回は、うつ病になってしまったときに人がとる行動や、心理的な状態、そして身体に現れる症状などを、私の実体験も交えながら見ていきたいと思います。
そもそもうつ病とは何なのか
気分が重い。気が落ち込んでいる。むなしい。絶望している。憂うつだ。
このような言葉で表現される症状は「抑うつ気分」と呼ばれていて、そのような気分が強くなっている状態を「抑うつ状態」といいます。
私たちが日常生活を送るうえでは「うつだ」とか、「うつっぽい」など、「うつ状態」という言葉をよく使いますが、精神医学では「抑うつ状態」という用語を使うことが多いようです。
そして、上記のようなうつ状態が、ある一定の基準以上となり、重症であると考えられるとき、それはただ単に気分が落ち込んでいるだけではなく、「うつ病」という病気にかかってしまっていると考えられるのです。
うつ病の原因
うつ病は、神経伝達物質という脳内で情報の処理や伝達をする物質に異常が起きていることが原因の1つと考えられていて、数ある神経伝達物質のなかでも、セロトニンという物質が減少していることが大きな原因と考えられています。
セロトニンが減る理由にもさまざまなものがありますが、昼夜が逆転した生活習慣、かたよった食生活、仕事やストレスなどによる精神状態の悪化など、なにかしらが「乱れ」ていくことで、脳内での分泌量に異常が生じていくことが多いようです。
近年では、私たちの体内に存在するウイルス(ヒトヘルペスウイルス)が、発症の引き金になるとする考え方も出てきましたが、うつ病は、いまだ全容が解明されている病気ではありません。
うつ病の症状
うつ病の症状は、上記のような理由から、まずは精神的な(メンタル面の)異常が生じ、しだいに身体的な(フィジカル面の)異常が生じてくることもあれば、その逆もありえます。
私の場合は、ギャンブル依存症との併発や、パワハラ、過労などによって症状が悪化していきましたが、そもそもは精神的な症状が先だったと記憶しています。
そしてうつ病になると、具体的には以下のような症状が現れます。
【心理的症状】
- 憂うつ、気分が重い、気分が沈んだままで上がらないといった抑うつ気分が続く
- 生きることへの不安、現状の不満に対する強烈な焦りが生まれるようになる
- ただただ悲しい、遠くへ消え去りたい、死にたい、といったことばかり考えるようになる
- 好きだったこと、やりたかったことなどへの興味、それらをすることによって得られていた喜びが喪失する
- なにごとに対しても意欲がわかない、気力がなくなる
- 悪いのはすべて自分だと感じ、自分を責め続ける
- 魂が抜けているかのようになり、集中力が低下する
【身体的症状】
- 夜になっても、体は疲れていても眠ることができない
- 食欲がなくなる、なにを食べていてもおいしく感じられない
- 体がだるい、いつも疲れている、疲れが取れない
- 頭痛や肩こりなどの体の痛みが出るようになる
- 動悸や息苦しさ、めまい、口が渇くようになる
- 便秘や下痢など、お腹の調子が悪くなる
【行動の変化】
- 誰とも話したくなくなる、親しかった友人でさえも避けてしまうようになる
- 興味や関心を失うことで自宅に引きこもりがちになる
- なにもする気力が起きないので、ただ自宅で「無」の時間を過ごすようになる
- 部屋が片付けられなくなり、いつも散らかったままになってしまう
- 仕事ではチームワークが取れなくなり、遅刻や欠勤が増える
- 「はい」と返事だけするも、なにも聞いてはいない
- 心配してくれる人からの連絡が怖くて見れない、すべて無視してしまう
- 「死にたい」というひとりごとが増える
- つねにどうすれば死ねるかを考えている
- 生気を失う、目に力が入らない、抜け殻のような状態になる
- 酒やギャンブルなどに依存していくようになる
これらはほんの一例ですが、うつ病になることでの変化には共通していることがあります。それは、精神面では「無気力・無関心・無感動」という3つの大切な感情を失い、身体面では自律神経の異常による症状が起き、行動面では気力を失うことでなにもしたくなくなり、コミュニケーション能力が低下する、ということです。
これらの条件にいくつか当てはまるだけでも、うつ病になっているという可能性は低くはないと思われますが、うつ病を診断する基準としては、アメリカ精神医学会によって出版されている、DSM(精神障害の診断と統計マニュアル)が広く基準とされているので、こちらもあわせて確認しておきたいと思います。
大うつ病エピソードの診断基準(DSM-Ⅳ)
DSM-Ⅳでは、「うつ病エピソード」と呼ばれる症状が見られる気分障害、その総称のことを「うつ病」としていて、うつ病エピソードのみが見られるものは「うつ病性障害」と呼び、うつ病・躁病エピソードの両方が見られるものは「双極性障害」と呼んでいます。
双極性障害とは、うつ状態と気分がハイになる躁状態を繰り返す病気のことで、うつ病と似ていますが、違う病気となっています。
そして、うつ病エピソードのうち、程度の重いものは「大うつ病エピソード」と呼ばれ、DSM-Ⅳではこれを、うつ病の診断基準として9つの項目で設定しています。(以下は意訳+補足)
- その人自身が悲しい、空虚感を感じるなどと明言しているか、他者が観察した際に本人が涙を流しているように見えるなど、1日中、もしくは毎日抑うつ気分である
- 1日中、または毎日、全て、もしくはほとんど全ての活動における興味、喜びが著しく減退している(自身の明言または他者の観察)
この2つの症状のうち(1)抑うつ気分(2)興味または喜びの喪失、のどちらかが最低でも1つ当てはまる場合は以下に進む。
- 食事療法をしていないのに、1か月で体重が5%以上変化するなど、著しい体重減少、もしくは体重増加、または食欲の減退もしくは増加
- 不眠または睡眠過多
- 精神運動性の焦燥(落ち着きがない)または制止(話し方や動作が普段よりも遅くなった)があり、他者からもその変化が観察できる
- 易疲労性(単純な作業などちょっとしたことでもすぐに疲れてしまうようになること)、または気力の減退
- 無価値観、または過剰であるか不適切な罪責感(自分は生きている価値がない人間だと責めることなど。病気になったことに対する罪の意識ではない)
- 思考力や集中力の減退、または何かを決断することが困難になる(自身の明言または他者の観察)
- 命を断つことについて繰り返し考え、特別な計画はないが反復的に考えたり、企てたり、そのためのはっきりとした計画を考える
上記の症状のうち、(1~2)を含めた5つ以上が同じ2週間の間にほとんど毎日存在し、病気になる前からの機能に変化を起こしている場合は、うつ病である可能性が高い(身体疾患や妄想、幻覚によるものではなく、愛する者を失ったなどによる反応でもない場合)。
皆さんはうつ病のチェックリスト、いくつあてはまりましたか? 当時の私は、(3)の体重の項目以外はすべてあてはまっていました。重いとき、軽いときはありましたが、数年間はだいたい上記のような症状がずっと現れていました。
うつ病かもしれないと思ったら
2000年初頭、「うつ病は心の風邪」というキャッチコピーで、製薬会社が大々的なキャンペーンを打ち出したことがありました。
うつ病は心の風邪。薬を飲んで寝ていれば治りそうな印象を受けますし、実際にこのキャッチコピーは知っている方も多いと思います。しかし、私が知る限りでは、薬を飲んで休んでいただけでうつ病を克服できたという話は、聞いたことがありません。
現に、このキャンペーンによって製薬会社は販売数を大幅に伸ばしたそうですが、軽度のうつ病に対する抗うつ薬の効果などに疑問が呈され、安易な薬物療法は避けるよう推奨されるなど、当時はちょっとした問題にもなっていたようです。
私は職業柄、いろんな方と話をする機会がありました。
うつ病で会社を休んでいる。病院にかよって投薬治療を受けている。何年間も会社を休んでいるけれど、医師からは復帰の許可が出ない。うつ病を克服して社会復帰することができた……。
うつ病を克服した人には共通点があるように思います。それは、投薬治療を受けている、受けていないに関わらず、うつ病の治療中に「あること」をしていたこと。
そう、根本的な問題を解決するために動いていたか、動いていなかったかです。
私が知るなかでは、うつ病を克服し、社会復帰した人は誰もが、それぞれの方法で根本的な問題を解決するために動いていたように思います。もちろん、私もそのうちの1人です。
それでは、根本的な問題を解決するためにはどうすればいいのかというと、これに関しては、「精神疾患治療の基礎知識」のカテゴリーで私の考えをまとめてあります。
要約すると、うつ病の原因となっていると考えられるサイクルは以下のとおりです。
- 神経伝達物質の異常により精神的な異常が生じる
- 精神的な異常により身体的な異常が生じる
- 精神的な苦痛、肉体的な苦痛を脳が察知し、その情報は腸へ伝わる
- 腸内環境が悪化し、神経伝達物質を効率的に作れなくなる
- 神経伝達物質に異常が生じる
これらの悪循環を断つには、神経伝達物質をつくり出す腸内環境を整える必要があると私は考えています。
現在、うつ病を始めとした精神疾患と腸内環境の関係性は、最新の研究でも次々とあきらかにされてきています。まだまだ人を対象とした研究は少ないといわれていますが、それでも腸内環境を改善することでの治療の有効性が示唆されているのです。
私の体感では、うつ病を克服するためのパワーバランスは「精神4:肉体6」。精神と肉体は切っても切れない関係、表裏一体であると私は思っていますが、メンタルはフィジカルが整ってくることで、あとからついてくるようにも思います。
したがって、うつ病かもしれないと思ったら、まずは生活習慣を見直し、腸内環境を整えるといった、身体的な部分から問題を解決していってみると効果があるかもしれません。
もちろん、精神科、心療内科などに行くという選択肢もあります。しかし、これについては注意してもらいたいこともあるので、また次回以降にでも書いていきたいと思います。
病院に行く際の注意点はこちら
→ うつ病で心療内科、精神科のどっちに行くか悩んだときの選び方と注意点
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