バーに存在する「暗黙の了解」というルールやマナーを解説する理由

バーに存在する暗黙の了解や紳士協定といったルール。しかし、現代においてはその効力は既に失われていた……

バーにおける暗黙の了解。それはバーを利用するのであれば知っておいて当然というルールやマナーのことを言うのですが、この暗黙の了解なるものは次第に崩壊しつつあると私は感じています。

それはなぜなのかと言うと、日本の景気であったり、企業の体質であったり、そういったものも少なからず関係しているとは思うのですが、ズバリ言うと、教えてくれる人が少なくなっているからだと思います。

そこで今回は、バーのルールやマナーにはこういうものがあるという話ではなく、暗黙の了解の話に大きく関わりがある、なぜ私がバーのマナーについて説明するのか、という話をさせてもらいたい。

暗黙の了解は崩壊しつつある

冒頭でも少し触れましたが、そもそも暗黙の了解とは何なのかというと、口に出して明言したり、言葉として表記せずとも、当事者間での理解・納得が成立しているルールのようなもののことを言い、簡単に言うとバーを利用するお客さんが事前に知っておくべきルールやマナー、常識のことを言います。

かつてはこのようなルールやマナーは上司から部下へ、先輩から後輩へ、あるいはお客さんからお客さんへと、様々な方法で受け継がれ、バーテンダーが言わずとも知っているお客さんの方が多かったと私は聞かされてきましたが、私が思うに、この流れは途絶えかけているような気がします。

そう思う理由としては、主に以下の4つ理由で説明することができると思います。

  1. バー業界の衰退
  2. 上司が部下を、先輩が後輩をバーに連れてくる機会の減少
  3. お客さん同士での注意は危険な時代に突入
  4. 時代の変化と共に出現し始めた自称“神”

それぞれ補足していきます。

1.バー業界の衰退

これに関しては私が見てきた現場の状況、付き合いのあるバーであったり、そこから派生した様々なバーの話を聞くなど、それらを総合しての判断になるのですが、恐らく日本のバー業界は衰退してきていると思っています。

バー業界が衰退するということは、それだけバーを訪れるお客さんが減るということですから、これが起点となって2つ目の理由が引き起こされるのです。

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2.上司が部下を、先輩が後輩をバーに連れてくる機会の減少

相対的に見てバーを訪れるお客さんが減っているのであれば、こういった上司と部下、先輩と後輩といった関係のグループも減少していると考えられるのですが、実際現場で見ていても以前と比べて減ってきていると思います。

それはなぜか?ズバリ言うとこのご時世、上司や先輩と一緒に飲みたいと思う人が少数派だからでしょう。特に仕事の上司、先輩といった関係の場合。
だって、仕事が終わったら早く家に帰りたいですよね?有意義な話ならともかく、説教だとか、油を売っている暇があったらさっさと家に帰りたいじゃないですか。

さらに言うと上司や先輩の方がマナーが悪いとか、部下が粗相をしていても咎めることもないといったことも結構よくある話で、これらから察するに、一昔前どころか二昔ほど前から上司や先輩が、部下や後輩にバーのマナーを教えてあげるという流れは消し飛んでいるのではないかと、私は思うのです。

3.お客さん同士の注意は危険な時代に突入

さらに、かつてのバーであれば、バーのルール的にアウツなお客さんがいれば、他のお客さんが注意をすることも多々あったと言います。

●●●
お客さん

君さ、マスターに迷惑かけちゃいかんよ

といった風にですね。
が、このご時世そういう訳にはいきません。それはなぜか?言ってしまえば何をされるかわかったものじゃないからですよ。

これも今になって始まった話ではないと思うのですが、酒を飲んで周囲に迷惑をかける人は一定数存在しますし、なんだか年々増加しているような気がするんですよね。
また、そういう人は頭がぶっ飛んだ狂戦士のような状態になることもあるため、注意した方が何かしらの危害を加えられるといったことも起こり得る訳です。で、後から出てくる言葉はお決まりの台詞。

「記憶に御座いません」

イブスター店長
イブスター店長

あんた、そんなんじゃ戦士の名が廃るぜ

4.時代の変化と共に出現し始めた自称“神”

そして極めつけはやはりこれ。
モンスタークレーマーだとか、モンスターウンタラカンタラだとか、大体この手の異名が付けられるのは神を自称する者達だと思うのですが、こういう人は基本的に自分のことだけで精一杯なんだと思うんですよね。
それが転じて自分さえ良ければいいになってしまい、暴力性だとか凶暴性が増幅され、周りが見えない横柄な自称ゴッドになってしまうのだと思うのですが、この手の人は誰が何を言おうが聞く耳を持ちません。

何かしらの権力を持つことでそのように変わってしまう人もいますが、そうなってしまうと上司が言おうが、周りのお客さんが止めようが、バーテンダーに注意されようが、彼らはもう止まらないのです。

このように、なんでもかんでも時代のせいにするのもどうかと思いますが、一連の流れと共に少なからずそういう時代にはなってきているような気がしますし、時代の変化と共にバーのルールやマナーといったものは、だんだんと知っている方が少なくなってきていると私は思うのです。

(余談)若者に言われたこと

また、これは余談になるのですが、以前こんなことがありました。

店に来店されたのは片方は先輩、片方は後輩という関係の男性2人組。
私もこれまで色んなトラブルがあったのでなんとなくわかるのですが、先輩の方から何かをやらかしそうな気配がバシバシと伝わってきます。そして入店後暫くすると、案の定やらかし始めた先輩男性客。

そのやらかしっぷりは既に限度を超えていたため私が声を掛けると、鉄板のパターンで男性は逆上し、結局そのまま帰るということになったのですが、そこで後輩男性客がこう言ったのです。

後輩男性客
後輩男性客

確かに、今回は間違いなく先輩が悪いと思うんですけど、一応先輩の手前言わせてもらいたい

後輩男性客
後輩男性客

やってはいけないルールがあるのであれば、先にどこかに書いておいてもらわないとわからなくないですか?それもなしに注意されるのも違う気がする

いや、確かにそう。彼の言うことも一理あるんですよね。

私はこういったことが起きる度に何か他の方法はなかったのかとか、もっといい方法があったのではないかといつも模索するのですが、流石に彼の言うように店中に注意事項が書かれた紙を張り付ける訳にはいかないですし、ルールブックを作成して置いておくというのも難しい話です。
しかし、恐らくこの手の問題に答えはないにせよ、やはりバーを利用するのであればルールやマナーは知ってて当たり前という風潮自体がよくないのではないかと。そして、それを何とかしなければならない時がすぐそこにまで近付いているのではないかと、私はこの出来事を機に切実に感じるようになっていったのです。

ルールやマナーは知ってて当然という風潮

バーを利用するのであればルールやマナーは知ってて当然という風潮。それこそがバーにおける暗黙の了解の正体だと思うのですが、先ほども見てきたように暗黙の了解は正しく機能しない時代に突入してきている訳で、もはや誰もがルールやマナーといったものを知っている時代ではないと思うのです。

正直言うと、この知ってて当然という風潮は根深い部分もあります。
バーによっては何も教えてくれず、突然素っ気なくされたり、突然帰ってくれと言われたりすることも確かにあります。

それは先ほど同様、お客さんも聞いてくれる人ばかりではないという背景や、自分だけ良ければいい、周りは知らんといったお客さんには言っても通じないという背景などがあるため、致し方無い部分があるのも確かなことだとは思います。

しかし、それでは本当にただ何も知らなかったという方はどうなってしまうのか。

知りたくても誰も教えてくれない、間違ったことをしても誰も教えてくれない。
それではいつまで経ってもバーのルールやマナー知ることはできないでですし、そんなことが続けばバーという場所が嫌になってしまってもおかしくはありません。バーに行ったことがない方からすれば、バーの扉を開く気にもなれないでしょう。

かつてはお金を払ってでも学ばせてもらいたい、嫌な思いをしてでも仲間に入れてもらいたいと、そうやってこの暗黙の了解を学んできたりもしたものですが、もうそんな時代でもないですし、知りたいと思ってくれる方が1人でもいる以上、誰かがやらないといけないことだと思うんですよね。バーに興味を持ってくれる方のために。

バーのマナーを解説する理由

私の経験上、バーのことをもっと知りたい、マナーやルールを教えて欲しいと、真剣に話を聞いてくれるのは若い方や初心者の方に多いという印象があります。
そして私は思うのです。そういった方が暗黙の了解の風潮が強いバーに行かれた際に、嫌な思いをして欲しくはないと。

このご時世、マナーやルールを教えてくれる人が身近にいるということはほとんどないと思います。バーテンダーさえも教えてくれなかったりすることもある訳ですから。

でも、それって違うと思うんですよね。

バーテンダーの仕事は何も酒をつくることだけではありません。バーの文化を残していくことも仕事の1つだと思うのですが、私はお客さんにマナーやルールを知ってもらうこともバーの文化を残していくことに繋がると思っています。

誰もが理解し合える綺麗な世の中なんてものは夢幻の世界の話ですから、そんなものは残念ながら存在することはないかもしれませんし、全ての人にマナーを理解して貰うのは不可能に限りなく近いでしょう。しかし、だからといって理解してくれる可能性まで自ら摘んでいたら残るものなんて夢の跡だけだと思います。

だからこそ私はバーに興味を持ってくれ、知りたいと思ってくれる方のため、そしてバー文化の存続のためにマナーを解説しているのです。

知っている人だけが来ればいい。
そのスタンスは実際楽ですよ。でも、それがこれからの時代何を生み出すのかというと、私にはわかりません。それで終わりのような気がします。

それに、知らないことは何も恥ずかしいことではありません。本当に恥ずかしいのは知ろうともせずに自分の我儘を押し付けることだと思います。

人はいつからでも、いくつになっても成長することができるものだと思います。
若いとか、若くないとか、年齢なんて関係ないでしょう。なので私は聞いて欲しいと思うのです。マナーやルール、そういったわからないことがあればバーテンダーに。

今回のまとめ

・暗黙の了解はもはや正常な機能を果たしてはいない
・ルールやマナーは知っていて当然という風潮は強い
・私がマナーを解説するのは人のため、バーのため

バーには様々なマナーやルールがありますし、店によってもそれは異なるため、正直言うと面倒臭いと思う方もいると思います。でも、その面倒臭さの先があることを私は皆さんに知ってもらいたいと思うのです。

特に人と人との繋がりや付き合いが希薄になっているこんな時代だからこそ、紳士淑女の社交場としての側面を持ち、困っている時は助けてもらえたり、知らない世界を教えてもらえたりすることができるバーの面白さを、是非とも体感してもらいたい。

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