神経伝達物質によっておこなわれるシナプスでの情報伝達の仕組みと、向精神薬の脳内作用をわかりやすく解説します。
脳での情報の伝達は神経伝達物質という仲介役によっておこなわれますが、情報の受け渡し自体は、やりとりの主体となる神経細胞の末端の部分「シナプス」でおこなわれています。
今回は、このシナプスでの神経伝達物質の流れを意味する「シナプス伝達」についてわかりやすく、そしてよりくわしく図説するとともに、情報伝達に異常が起きている場合や、抗うつ薬などの向精神薬が、脳にどのように作用するのかも見ていきたいと思います。
シナプスでの情報伝達の仕組みや、そこから見えてくる精神的な病の原因について、さらに理解を深めていきましょう。
シナプスの構造と情報伝達の流れ
脳内には神経細胞(ニューロン)という情報を処理・伝達する細胞があり、情報を送る側の神経細胞の末端部分(軸索:じくさく、左側)と、情報を受け取る側の神経細胞の受け取り部分(樹状突起:じゅじょうとっき、右側)をシナプスといいます。
情報を送る側のシナプスはシナプス前細胞といい、情報を受け取る側のシナプスはシナプス後細胞といいますが、上の図を見ると、シナプス前細胞の末端は、すこしふくらんだような形状をしていますよね。
このふくらんだ部分をシナプス前終末といい、神経伝達物質は、このシナプス前終末から放出され、脳内での情報の伝達がおこなわれるのです。
それでは、シナプスの部分を拡大して見てみましょう。
神経細胞のシナプス部分の拡大図です。
上は情報を送るシナプス前細胞の末端であるシナプス前終末、下は情報を受け取るシナプス後細胞をあらわしています。
シナプス前終末にはシナプス小胞という膜に包まれた袋のようなようなものがあり、ここに神経伝達物質が貯蔵(格納)されています。トランスポーター(再取り込み口)とは、放出された神経伝達物質をふたたび取り込み、シナプス小胞に充填するためのもの。
また、シナプスは、表面を囲ううすい膜からできていて(細胞膜)、シナプス前終末側の細胞膜をシナプス前膜、シナプス後細胞側の細胞膜をシナプス後膜といい、向かい合った細胞膜同士のすきまをシナプス間隙(かんげき)といいます。
シナプス間隙は、神経伝達物質の受け渡しをおこなう場となっていて(このすきまがあるからこそ情報の伝達には仲介役が必要となる)、シナプス間隙の距離は、20nm~50nm(ナノメートル)とひじょうに短い距離となっています。(1nm=1mmの100万分の1)
そして、シナプス後細胞にある、送られてきた神経伝達物質を受け取るポケットのような部分がシナプス後受容体(レセプター)です。
シナプス伝達の流れとその仕組み
シナプスの構造が理解できたところで、つぎは、シナプスでの情報伝達の流れを見ていきましょう。シナプスでの情報の受け渡しは、以下のようにおこなわれています。
- 神経細胞から神経細胞へ情報が伝達されるさい、活動電位という電気信号が神経細胞に発生する
- この活動電位が神経前終末まで達すると、シナプス小胞がシナプス前膜まで移動して結合。するとシナプス小胞が細胞膜を開き、中に貯蔵されていた神経伝達物質をシナプス間隙へと放出する
- シナプス間隙へ放出された神経伝達物質の一部は、トランスポーターによって再度シナプス前終末に取り込まれてリサイクルされるが、情報を伝達するために神経伝達物質はシナプス後細胞を目指す
- シナプス後膜にあるシナプス後受容体によって神経伝達物質は受け取られ、情報の受け渡しとなる
これが脳内での基本的な情報伝達の仕組み(神経伝達物質の流れ)です。
うつ病をはじめとした精神的な病は、この情報伝達に異常が起きていることが原因と考えられていますが、シナプスでの神経伝達物質の流れを知ることで、脳内でなにが起きているのかを知ることができます。
これも、1つ1つ見ていきましょう。
シナプスでの情報伝達に異常が起きているケース
今回はギャンブル依存症と、うつ病を患っている場合の神経伝達物質の流れを、さきほどと同じように見ていくことにします。
まずはギャンブル依存症の場合は、脳内でなにが起きているのかを確認してみましょう。
ギャンブル依存症はドーパミンの過剰分泌
ギャンブル依存症は、報酬系と呼ばれる「快の回路」に異常が生じることで、より強い快楽を求めるようになってしまうのが原因と考えられ、これは薬物依存などのメカニズムにも関与していると考えられています。
最初の図とくらべると、シナプス間隙に放出されている神経伝達物質の量が多い(濃度が濃い)ことがわかりますよね。
ギャンブル依存症は、くりかえしおこなわれるギャンブル行為によって、快楽にかかわる「ドーパミン」という神経伝達物質が過剰に分泌されるようになってしまい、その異常によって、しだいに歯止めがかからなくなっていくのがおもな原因と考えられています。
加えて、ギャンブル依存症の場合は、脳がギャンブルにしか興味をしめさなくなっていくという問題もあり、それもあって、抜け出すのがひじょうに困難となってしまうのです。
うつ病はセロトニンの分泌量が少ない
ギャンブル依存症の原因にもなる情報伝達の異常。そういった脳内物質の過剰分泌を抑制する機能を持った神経伝達物質に、セロトニン」というものがありますが、このセロトニンの分泌異常は、うつ病を引き起こす原因になると考えられています。
最初の図とくらべると、シナプス間隙に放出されている神経伝達物質の量が少ない(濃度が薄い)ことがわかりますよね。
神経伝達物質であるセロトニンには、その他の神経伝達物質の「暴走」を抑制するとともに、心身を安定させる働きがあるため、セロトニンの分泌量が不足してしまう(脳内のセロトニンの濃度が低くなってしまう)と、それがうつ病などの気分障害の原因となってしまうと考えられているのです。
責任感が強く、まじめで、几帳面、といった、本人の性格にも関係があるといわれています。
シナプスで作用する向精神薬の仕組み
うつ病の場合、脳内のセロトニン濃度の低下が1つの原因と考えられていることがわかりました。それでは、うつ病の第一の選択薬として現在も広く使われている向精神薬は、シナプスでの情報伝達にどのように作用するのかを見ていきましょう。
うつ病の第一選択薬としてよく用いられるのは、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という「抗うつ薬」と呼ばれているものです。
これら「SSRI」に分類される抗うつ薬の脳での作用は、以下のようになっています。
うつ状態の脳は、セロトニン濃度が低下していることがわかっていますが、それならば、シナプスにおけるセロトニン濃度を上昇させることができれば、情報伝達の異常を解決することができると考えられます(この考えをモノアミン仮説といいます)。
そこで、セロトニン濃度の低下を解消するために、トランスポーター(再取り込み口)にふたをしてしまうのです!
そうすることでなにが起こるのかというと、シナプス間隙に放出され、神経終末に取り込まれるはずだったセロトニンがふたたびシナプス間隙に戻っていき(再取り込み口の中に入れなくなってしまうため)、それによって、シナプスにおけるセロトニン濃度は上昇、ある程度高い状態でセロトニン濃度を維持することができるようになるのです。
こうすることで情報伝達が増強され、うつ状態が改善されると考えられているわけですね。
ただ、この薬によって、すぐに脳内のセロトニン濃度は上昇するのにもかかわらず、抗うつの効果は1~2週間ほどの時間がかかるということも知られていて、これは薬の作用によって、じつは脳内のシナプス形成が促進されているのではないか、という説もあるようです。
今回のまとめ
・ギャンブル依存症はドーパミンの過剰分泌が原因と考えられている
・うつ病はセロトニン濃度の低下が原因と考えられている
脳内のシナプスでは、どのようにして情報の受け渡しがおこなわれているのか、神経伝達物質の過剰・不足が、脳内での情報伝達にどのように影響を与えるのか、これらへの理解が深まりましたね。
人間の脳で起きていることのすべてが解明されているわけではないので、いまだはっきりしない部分も多いようですが、精神的な病の原因は、この神経伝達物質の流れにあると考えられていて、実際にギャンブル依存症などを患っていた私も、そうなのではないかと思っています。
ただ、原因がわかれば、対策を立てることもできるはずですよね。
個人的には、うつ状態をなんとかするには生活習慣を変えること、ギャンブル依存症をどうにかするには、ギャンブルに関連するものを完全に遮断すること(これも生活習慣を変えるということになります)、などが効果があったように思います。
いずれもそんな簡単な言葉で片づけられるような話ではなかったのですが、同じようなことでお困りの方は、以下の関連記事もご参考にしてみてください。
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