バーで「あちらのお客様からです」は存在するのか?を元バーテンダーが解説

「え、なんですかこれ!?」「あちらのお客様からです」……それはもはや、都市伝説レベルかもしれません。

バーのカウンターでひとりで飲んでいると、とつぜんバーテンダーから「あちらのお客様からです」とお酒を出され、「あちら」のほうを見ると、そこには紳士的な男性が……。

なんて、ドラマや映画のワンシーンで出てきそうな話ですが、そもそもの話、この「あちらのお客様からです」は、ほんとうにバーに存在するのでしょうか? かりに存在したとして、それをするのはありなのでしょうか?

よく聞くような話なので、ふだんからバーに行く方も行かない方も、気になることではあると思いますし、なかには、これをしてみたいからバーに行ってみたい、という方もいらっしゃるかもしれません。

そこで、そんな気になる方のため、今回は7年ほどの現場経験もある私が、「あちらのお客様からです」にまつわる話の真相をお伝えしたいと思います。

さきにいってしまうと、これはいくつかの理由から、お店ではことわられることも多いのですが、成功するパターンがある(存在する)のも事実ですよ。

目次

あちらのお客様からですはアリかナシか?

あちらのお客様からです(以下、長いので「AO」ともします)というのは、そもそも男性から男性、女性から女性へむけてのものではなく、基本的には、男性から女性へむけてのものであって、ナンパ行為に近いともいえるもの。

酒場がバーとよばれるようになった、つまりバーが生まれたのは、1800年代のアメリカ西部開拓時代。これを描いた「西部劇」の映画などで、グラスをすべらせるシーンがよく登場することから、「あちらのお客様からです」の元ネタは、映画にあるのかもしれませんが、その影響もあってか、一時期は日本でもよくみられたそうです。

私が聞いた話では、それは、日本中が好景気にわきあがり、トレンディドラマも流行、世の男性たちはディスコ・クラブ・カフェバーなどでナンパに明け暮れていたという、バブル経済期の80~90年代のころ。

しかし、その後になってバブル経済は崩壊してしまったわけで、時代の流れとともにバーも変化。現在では、バーでのナンパは迷惑行為とみなされることが多く、バーの利用者も、そういったことはわかっている方が多いので、じつは「AO」が発動することは、バーではかぎりなくゼロに近いのです。

そう、残念ながら現代においては、「あちらのお客様」は、都市伝説レベルでしか存在しないのです!

事実、私が現場で働いていた7年以上、そこに、働きはじめるまえの期間も足せば、最低でも8~9年は職場+αでよくバーにいましたが、じっさいにこの目で見た、またはたのまれたのは、片手でかぞえられる程度でした。

もちろん、バーのスタイルによっては(たとえばお客さん同士の距離が近いようなバーでは)、話のきっかけとして「AO」が起こることもないことはありません。ただ、ある程度しっかりとしたバーでは、これはほぼ起こりえないことなのです。

なぜかというと、「あちらのお客様からです」をしようとすると、ことわられたりする場合もあるからです!

あちらのお客様からです、が断られる理由

バーで「あちらのお客様からです」をしようとすると、場合によってはふつうにことわられます。

というのも、それを受け入れてしまうと、あちらのお客さん(奢る側)とこちらのお客さん(奢られる側)とのあいだに、必然的に優位性が生まれてしまうから。

どういうことか、まずはこれを説明しましょう。

たとえば、「AO」が男女間で成立したとして、それは男性側が勝手にしてきたこととはいえ、女性側はなにかをもらうかたちになるわけですから、当然、そこには貸し借りのような優位性が生まれてしまいます。

そうなると、こちら(女性)のお客さんは、話す気分ではなくても話さないといけないような感じにもなりますし、連絡先を聞かれでもしたら、ごちそうされている手前、教えたくなくてもことわりにくくもなるというもの。

その結果、こちら(女性)のお客さんは、そういった面倒くさいことが起こるお店にはもう来なくなるという可能性も高く、お店側としても、大切なお客さん(とくに女性は大事にされることが多い)が来なくなるのは、かなりの痛手となってしまうのです。

なかには、「タダ酒が飲めてラッキー」となる方もいらっしゃるかもしれませんが、ひとりでバーに来られる女性のお客さんは、ひとりになりたいなどの明確な目的があって来られているなど、そういったコンタクトをいやがる方もすくなくはありません。

つまり、「あちらのお客様からです」は、女性のお客さんの快適な時間・空間を守るためという理由で、お店側からことわられてしまうことも多いのです。

バーテンダーは未然にトラブルを防ぐのも仕事

また、あちら(男性)のお客さんにはそういった意図がなかったとしても、結果的にお客さんがひとり来なくなってしまったとなると、お店側としても、なんらかの注意をしなければならなくなってしまうこともあります。

そのまま「あちらのお客様からです」をOKにしておけば、今後、おなじようなことが起きてしまう可能性もあるから。

じっさい、私が勤務していたバーでは過去に、手当たりしだい女性に「なにかごちそうしてあげるよ」と声をかける男性客がいて、女性のお客さんからはクレームが殺到、最終的には多くの女性客がお店からいなくなり、その男性客も来れなくなってしまった、という話もあったそう。

最初から「あちらのお客様からです」をNGにしておけば、こういったトラブルは、もしかすると未然にふせげたのかもしれません。

バーテンダーは、お客さん同士のトラブルをふせぐのも仕事のうちですから、そういったリスクを避けるためにも、じつは「AO」はことわられてしまうこともすくなくはなく、このへんに、これをほとんど見かけることがない理由があるのです。

したがって、アリかナシかでいえば、「あちらのお客様からです」は、“基本は”ナシということができるでしょう。

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あちらのお客様からですの成功&失敗パターン

お客さんひとりひとりを守るため、お客さん同士のトラブルをふせぐため、「あちらのお客様からです」は、ことわられてしまうことも多いのですが、そうはいっても成功するパターンもじつはあって、かならずしもこれがNGとなるわけでもありません。

今日はなんだかいいことがあって、だれかにお酒をふるまいたい。初めて来た知らないお店だけど、自分も仲間に入れてほしい。はじけてしまったバブルの熱気を、崩壊後のいまだからこそ感じてみたい……。

なかには、「あちらのお客様からです」をしたいという方もいらっしゃるでしょうし、これをきっかけに、話が盛り上がることがあるのもやはり事実。

そこで、ここからは、そんな「あちら側」の方のため、私が「AO」を成功させるための方法を、成功例・失敗例をまじえてご紹介したいと思います。

Case1:あちら初来店×こちら初来店

あちらのお客様もこちらのお客様も初来店

まずは「Case1」。あちら(男性)のお客様もこちら(女性)のお客様も初来店、という場合から見ていきましょう。

これは、ほぼ確実に失敗すると思っていたほうがいいです。

まず、両者の素性がわからない以上、バーテンダーも動けません。あちらの男性が、さきほどもふれたような手くせのわるいナンパ師かもしれませんし、こちらの女性は、そういうのが好きではない、というよりもむしろきらいな人かもしれません。

よって、この状況での「あちらのお客様からです」は、成功する道理がないのです。

「そんなもの、やってみないとわからないじゃないか!」と思われるかもしれませんが、じっさいこの状況で「AO」をしようとすると、以下のようなパターンとなって撃沈するのがオチ。

あちらのお客さん
あちらのお客さん

マスター、そちらのお客さんになにか1杯……

湊
ミナト

いや、ウチはそういうのやってないんですね……すいません

最高に居たたまれない感じになってしまうのは必至となるので、このパターンで「AO」を発動させるのだけはやめておきましょう。

Case2:あちら常連さん×こちら初来店

あちらのお客様は常連でこちらのお客様は初来店

つづいて「Case2」。あちら(男性)のお客様は常連さんで、こちら(女性)のお客様は初来店という場合。

この場合も、やめておいたほうが無難でしょう。

バー(お店)と常連のお客さんとの関係というのはすこし特殊なもので、バーテンダーは常連さんのことを親愛なる友人かのように思い、常連さんはずっとお店がつづいてほしい、それに協力したい、と思ってくれるなど、おたがいのあいだには「絆」のようなものが生まれたりもします。

新規の女性のお客さんが、行きつけのバーに来たとなれば、常連さんからすれば、その女性の方もこれからかよってくれるようになればいいな、と思ってくれたりもするものですが、そこで、その女性客がまた来てくれるようにと、このタイミングで「AO」を発動させたとしましょう。

たしかに、それがうまくいくこともあるかもしれません。ただ、前述のとおり、そういうのがいやな女性は、初めてのお店でいきなりそんなことがあると、その時点でもうお店には来なくなる可能性もあるわけです(とくに常連さんからとなると、優位性が増幅して感じられるのもある)。

ようするに、善意が逆効果となってしまうこともあるということ。

したがって、この状況でも「あちらのお客様からです」は失敗する(バーテンダーにことわられる)可能性があり、場合によっては、おたがいの信頼関係に傷がついてしまうこともあるかもしれないので、「AO」はここでもないと考えておいたほうがいいかもしれません。

Case3:あちら初来店(or 複数回)×こちら常連さん

あちらのお客様は初来店または複数回でこちらのお客様は常連「Case3」の、あちら(男性)のお客様は初来店または複数回来店で、こちら(女性)のお客様は常連さんという場合、これはいける可能性が多少はあります。

女性のお客さんが常連さんであれば、バーテンダーも、あと何杯飲まれるのか、なんのお酒が好きなのか、そのお客さんはどのような人なのか、といった、その人のことやほかのお客さんとの相性は、だいたい把握できていたりもするからです。

あちらの男性が、たとえば「初めてのお店だけど仲間に入れてもらいたい」といったお近づきのしるしとして「AO」をしたいといった場合、女性の常連さんが「そういうことなら」と理解してくれる人であれば、

湊
ミナト

あちらの方がご馳走したいそうですけど、どうしましょうか?

と、バーテンダーも聞きに行くこともできます。

女性の常連さんが、ビールやワインなどのおなじものしか飲まないという方であり、かつ「あちらのお客様からです」を、ある種のネタとして受け入れてくれるという、超限定的な場面では、

湊
ミナト

あちらのお客様からですよ!

と、飲み終わるタイミングを見はからって、「AO」を完遂することもできるかもしれません。

ただ、これも前述のとおりで、あちらのお客さんがなにを目的としているのかがわからなければバーテンダーは動けないですし、ナンパ目的であればおそらくことわられるので、なぜそうしたいのかが伝わる程度は、バーテンダーと話してからではないとむずかしいといえるでしょう。

よって、この状況は、場合によっては成功する可能性ありといえます。逆にいうと、いわゆる「あちらのお客様からです」が成功するパターンは、これくらいかもしれません。

Case4:あちら常連さん×こちら常連さん

あちらのお客様もこちらのお客様も常連客

最後に「Case4」。あちら(男性)のお客様は常連さんで、こちら(女性)のお客様も常連さんという場合。

これは、おたがいが見知った仲であれば、ふつうにあったりもします。

今日はボーナスが出たんで飲んでください! 今日は誕生日なんですか? それじゃあ1杯ごちそうしますよ! 先日はありがとうございました、今日はお礼に、なにか好きなものをどうぞ……。

知らない人にたいしてのいわゆる「あちらのお客様からです」ではありませんが、常連さん同士のコミュニケーションのひとつとでもいうような、ナンパとか、下心とか、優位性とか、そういった話ではない、ほんとうに気持ちの話だけでの「AO」。

これも立派な「あちらのお客様からです」だと思いますし、それに、バーはそういうのがおもしろい場所なのではないかと私は思いますよ。

今回のまとめ

・あちらのお客様からは基本的にはナシ
・お客さんのあいだで優位性が生まれるのがよくない
・ただし常連さん同士ではあることもあり、人によってはOKの場合もある

かつて私が勤務していたバーのマスターは、「バーは茶室のようなものだ」といっていました。格の高い武士であっても、茶室のせまい入り口をくぐるには刀を置いてこなければならず、亭主と客の立場は対等。どれだけ身分にちがいがあっても、フラットに話すことができる、それがバーなのだと。

これは、お客さん同士でもいえることだと私は思います。したがって、「あちらのお客様からです」を使って、知らない人にお酒をごちそうするのは、このおたがいが対等という絶対の法則がくずれてしまうことにもつながりかねないので、基本的にはどのバーでもナシとされているのではないでしょうか?

常連さん同士でのコミュニケーションのひとつとして存在することはするので、絶対のタブーというわけではけっしてありませんが、やはりこれまで見てきたとおり、バーテンダーもふくめ、おたがいが見知った仲ではないのであれば、ひかえるに越したことはないと思います。

ほかのお客さんと話す糸口をつかめない、ならば「AO」しかない、なんてことはありません。バーテンダーは(もちろん人によりますが)その仲介もしてくれるので、そんなことはしなくても仲間に入れてもらうことはできますよ。

ちなみに、これが最後の話で、「あちらのお客様からです」というとお酒を想像すると思うのですが、もっと簡単に成功させる方法もあります。それは、お土産などのお菓子を行きつけのバーに持っていくこと。

こういったお土産などのお菓子をお店側に渡すと、バーテンダーが「あちらのお客様からです」と、ほかのお客さんにもくばってくれたりもします。それがきっかけで、ほかのお客さんと仲良くなれたりすることもあるのです。

ようは、どうしても「あちらのお客様からです」がしたいのであれば、お土産を持っていけば簡単にできるというわけですね。……というのが、お土産を食べたいだけの元バーテンダーからの助言です。

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